2014年03月12日

韓国における少子化の原因とその対策 ―「低出産・高齢化社会基本計画」の成果と今後のあり方―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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■要旨

  • 2012年の韓国の合計特殊出生率(以下、「出生率」)は、最近少しずつ上昇しているものの1.30に過ぎず、OECD加盟国の平均出生率1.74(2010年)に比べると著しく低い水準である。
  • 一方、韓国の2012年の高齢化率は11.8%で、日本の24.1%に比べるとまだ低いが、高齢化のスピードが速く、2025年には20%を、さらに2037 年には30%を越え、2050年には37.4%まで上昇することが見通されている。
  • 韓国の人口政策は、大きく三つの期間((1)1961~1995年、(2)1996~2003年、(3)2004年以降)に区分することができる。
  • 人口政策の第3期(2004年以降)には、低出産・高齢化問題に本格的に対応するために、2006年から「低出産・高齢社会基本計画」を実施している。基本計画実施以来、実際に出生率は2006年の1.12から2012年には1.30まで増加した。しかしながら、2013年の出生率は1.19まで低下することがすでに暫定発表されており、今後の出生率増加の動向については、政策の効果に疑問が持たれている。
  • 韓国における少子化の原因としては、(1)女性の学歴上昇と晩婚化や未婚化の進行、(2)若年女性の労働市場参加の増加、(3)仕事と家庭の両立を支援する制度が依然として不十分、(4)教育費負担の増加、(5)結婚と子供に対する価値観の変化、(6)改善の進まぬ若年層の雇用及び所得の不安定状態が挙げられる。
  • 2006年から実施された「低出産・高齢社会基本計画」は、「すべての世代がともに生きる持続可能な社会」というスローガンの下で、第1段階(2006年~2010年)には「少子高齢化社会に対応するための基盤構築」を、第2段階(2011年 ~2015年)には「漸進的な出生率の回復及び高齢社会に対する対応策の確立」を、第3段階(2016年~2020年)では「OECD平均の出生率回復と高齢社会への円滑な適応」を目標にしている。
  • 第1次基本計画の実施以降、嬰・幼児保育・教育費支援率は、2005年の21.9%から、2010年には42.0%に上昇した。また、同期間における育児休職制度の利用者割合も、26.0%から50.2%まで上昇する効果が現れた。しかしながら、第1次基本計画は、支援対象が低所得層に限定されていたために、子育て世帯全体としては、育児や教育に対する負担感はそれほど減らず、全体的には出生率の改善効果も大きくなかった。
  • 第2次基本計画における低出産改善分野の政策方向は、出産と育児に有利な環境を形成することである。このために(1)仕事と家庭の両立の日常化、(2)結婚、出産、育児の負担の軽減、(3)児童・青少年の健全な成長環境の形成という三つの方向を設定した。
  • 「低出産・高齢社会基本計画」の成功の鍵は、何よりも、女性が結婚、出産、育児により労働市場を離れ、キャリアが断絶されてしまう現象を防ぐことにある。そして、そのためには、育児や家事に対する男性の積極的参加、及び、企業や社会の意識の変革が必要である。
  • 男性の育児休業取得率が低いなど、制度の活用度が低い現状を考えると、韓国社会に、仕事と生活の両立が可能な文化を定着させるためには、男性の積極的参加を誘導できる、強力かつ強制的なインセンティブ制度の整備が必要であるだろう。
  • 日本と韓国は、社会経済的な面で類似点が多く、日韓両国がお互いの制度を参考にしながら、今後の少子高齢化対策を一緒に講じていくことが、時間的・経済的ロスを最小化し、日韓がともに発展するシナジー効果を発生させる道であろうと考える。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

(2014年03月12日「基礎研レポート」)

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