コラム
2014年02月27日

G20「5年間でGDP2%以上引き上げ」目標をどう見るか?-外圧が中国、ドイツを変えることはないが、

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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2月22日~23日にシドニーで開催された20カ国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会合で「今後5年間でGDPを2%以上引き上げる(声明文)」数値目標が設定された。

この数値目標の実現性については懐疑的な見方が大勢を占める。そもそも、今回の合意は、11月のG20ブリスベン・サミット(首脳会議)での行動計画の策定に向けて、数値目標の実現のための「野心的だが現実的な政策(声明文)」を各国がとりまとめるというもの。今の段階では、具体的な政策がはっきりしない。さらに根本的な問題が、G20の合意には各国の政策を拘束する力はなく、共通目標の実現のためにG20が共通財源を備えている訳でもないことだ。
   参加各国が、それぞれの財源や資金調達能力の範囲でそれぞれの政策決定プロセスを通じて課題に取り組むのであれば、とり得る政策の幅や規模、スピードには自ずと限界がある。

想定される政策に成長と雇用への即効性が期待できない事情もある。数値目標の根拠となった国際通貨基金(IMF)の報告書(注)が想定する政策の柱は(1)中期的な財政健全化、(2)不均衡是正、(3)財・労働市場改革、(4)インフラ投資の4本。いずれも持続可能な成長と世界的な不均衡の蓄積による危機の再発防止に欠かせないが、インフラ投資を除いて短期的な景気浮揚・雇用創出効果は限られる。
   今回の数値目標は、世界金融危機・同時不況への緊急対応がテーマであった2009年4月のロンドン・サミットで4%の生産拡大効果を見込んだ5兆ドル相当の「前例のない連携した財政拡大(声明文)」につながるものではない。

数値目標の実現に特に大きな役割が期待されているのは中国とドイツだ。IMFの報告書では、不均衡是正では、経常黒字で世界第1位と第2位の中国とドイツ、経常赤字が世界第1位の米国の努力を前提としている。特に、中国は、教育、医療、年金改革、金融改革、さらに完全に柔軟な為替相場制度への移行などを通じたリバランスの余地が大きいとされている。財・労働市場改革を通じた生産性引き上げの余地が大きいのは新興国と欧州大陸諸国。インフラ投資に関しては、新興国でも、工業化や都市化の進展にインフラ投資の遅れが目立つブラジル、インド、インドネシアとともに米国、ドイツの貢献が期待されている。

中国とドイツに大きな役割が期待されているものの、この両国が外圧によって政策を軌道修正することは考え難い。中国は、3月5日に開幕する全国人民代表大会(中国の国家に相当)で7~8%の経済成長と構造改革の両立を目指す従来の方針を確認するだろう。ドイツも、昨年12月に発足した第三次メルケル政権の連立合意の内容でG20の「行動計画」の策定に十分応えることができるとの立場。「健全な財政が成長の前提条件」がドイツの理念であり、世界経済の押し上げのための財政出動に動くことは考え難い。

だからと言って、中国もドイツも不均衡を放置している訳ではない。中国当局は、国有企業や地方政府の過剰設備、過剰債務問題への対応と金融健全化を先送りし続ければ、先行きの無秩序で過剰な調整のリスクが高まることを承知した上で慎重に舵取りしているように見える。ドイツは、15年初から、国内の所得格差是正への取り組みとして、対外的な競争力にはマイナスに働くおそれがある最低賃金の導入を予定している。さらにドイツには、ユーロ制度改革、特に銀行行政を一元化する銀行同盟を軌道に乗せる責任があり、ディスインフレ懸念を強める欧州中央銀行(ECB)の追加緩和もある程度容認せざるを得ない。

中国もドイツも変わりつつある。ただ、その変化のスピードが、諸外国が満足するほどの速さではないだけだ。




 
(注) “Macroeconomic and reform priorities”, prepared by IMF with inputs from the OECD and the World Bank Group
       (www.g20.org/sites/default/files/g20_resources/library/G-20%20Macroeconomic%20Reform%20Priorities%20Report%20Feb%2012%202014.pdf)
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

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