コラム
2014年02月26日

東京のタクシーはなぜ高い?

金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸

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仕事で海外に出かけることは、総合商社等に勤めている友人に比べると多くもないが少なくもない。特に、近年はアジア圏への出張が多くなっている。高齢化の進展を踏まえて、年金の抱える問題に関する講演等の依頼が多い。出張先の現地での移動は、基本的に子どもの頃から車より鉄道が好きなため、極力、地下鉄等の鉄道に頼ることが少なくない。特に、単身で移動する場合には、それがもっとも廉価な移動手段となる。残念ながら、路線バスは現地の言葉がハードルとなり、気楽に利用することができない。ところが、アジア圏で出張した幾つかの大都市では、特に同行者のいる場合は顕著に、地下鉄よりもタクシーを利用した方が安価な場合がある。そこで、アジア圏の幾つかの大都市と東京のタクシー運賃を比較してみることにした。特に東京では、この4月に消費税率引上げを受けた運賃改定が予定されており、現在の運賃の方が差は小さいものと思われる。

ご存知の通り、東京の一般的なタクシーは、初乗り運賃が710円で、その後、90円ずつメーターが上がって行く。初乗り運賃の適用は当初2kmまでで、その後は、288m車が進むごと、もしくは105秒が経過するごとに、90円ずつ運賃が加算される計算になっている。続いて、アジアの代表的な大都市として、香港・台北・ソウル・北京のタクシー運賃を比較してみよう。ただし、東京以外の都市にも時間加算が存在している。しかし、時間加算については、道の混み具合次第で大きく所要時間の異なることから捨象し、純粋に距離の観点だけから試算してみよう。設定としては、昼間に渋滞のない市内の道路で、目的地まで5km乗車したとする。

まず、香港市内を走る赤色タクシーは、2kmまでの初乗り運賃がHK$22で、その後200mごとにHK$1.6が加算される。その結果、5kmの乗車であれば、HK$46(円換算600円程度)となる。次に、台北市内のタクシーでは、1.25kmまでの初乗り運賃がNT$70で、その後250mごとにNT$5が加算される。結果として、5kmの乗車であれば、NT$145(円換算490円程度)の運賃となる。続いて、ソウルの一般タクシーの場合には、2kmまでの初乗り運賃が3,000ウォンで、その後142mごとに100ウォンが加算される。したがって、5kmの乗車であれば、5,100ウォン(円換算530円程度)になる。最後に、北京のタクシーだと、3kmまでの初乗り運賃が13元で、その後1kmごとに2.3元が加算され、結果として5kmの乗車であれば、18元(円換算300円程度)の運賃となる。なお、これらの運賃テーブルは、香港が2013年12月、台北が2007年11月、ソウルが2013年10月、北京が2013年7月に改定された最新のものを用いており、チップを含んでいない。

結果を見ると、北京の300円程度がもっとも安く、続いて、台北の490円程度であり、僅差でソウルの530円程度が続き、もっとも高額なのは、香港で600円程度となる。人民元の強さなど為替レートの差による影響も拭えないが、実際に利用して安価であると感じる香港が、もっとも高くなったのは予想外の結果であった。ところが、同じ5kmの距離を東京のタクシーに乗車すると、現在のレートで計算して1,610円が必要になる。アジアの他の大都市に比べると、数倍に達する極めて高額な運賃水準なのである。

安倍政権はタクシーの余剰台数を圧縮するとして、来年度より競争の激しい大都市圏などにおいて、タクシーの台数制限を掛ける予定である。加えて、4月からの消費税率引上げによって、東京のタクシーは初乗り運賃を730円に引上げようとしている。確かに東京のタクシーには、アジアの他の大都市のタクシーでは珍しい自動ドアが付いており、日本語さえ話せれば、極めて快適な移動が可能となる。しかし、それだけで、果たしてこれだけの料金格差は正当化できるだろうか。ガソリン等のエネルギー価格には、いずれの国でも輸入への依存が大きく、物価水準や人件費の差以外では十分な説明が付かない。今回比較したアジアの大都市において、公共交通機関が未発達であるということもない。いずれの都市も地下鉄の路線が存在し、地元住民であれば、更に、路線バスを利用することも出来るだろう。結局のところ、タクシー台数・参入障壁及び運賃に関する政策の問題なのではないか。ちなみに、東京のタクシー料金は、ニューヨーク(同様に試算すると970円程度)やロンドン(同様に試算すると1,670円程度)といった高度先進国の大都市でのタクシー料金と比べると、必ずしも遜色はない。これを先進国のコストと見るべきなのだろうか。

日本がこれからアジアの観光客を誘致しようとするならば、高額のタクシー運賃が一つの障害になるかもしれない。幾ら東京の地下鉄網が整備されているとしても、平常時のみならず、特に、一部路線などで運休等の異常時があった場合、ツーリスト向けに必ずしも十分な説明が行われてはいない。今月のように、都心の大雪で交通網が麻痺した場合、日本語のわかる東京都民ですら適応しきれないのに、十分に言葉の通じない異国で案内も乏しい中で放置される観光客には、どのように対応できただろうか。ターミナル駅頭で途方にくれる外国人旅行者は、決して少なくないように見かけられたのである。鉄道で対応できない時に、例えば、ソウルで見られるように、運転手が英語等複数の外国語を話し、事故や違反のないタクシーを、模範タクシーとして別格扱いにするといったことはできないだろうか。日本が観光立国を目指すためには、海外からの渡航者の視点に立って、まだまだ色々なことを考える必要があるものと考えられる。

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金融研究部   取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
債券・クレジット・ALM

経歴
  • 【職歴】
     ・1986年 日本生命保険相互会社入社
     ・1991年 ペンシルバニア大学ウォートンスクールMBA
     ・2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社に出向
     ・2008年 ニッセイ基礎研究所へ
     ・2021年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・日本ファイナンス学会
     ・証券経済学会
     ・日本金融学会
     ・日本経営財務研究学会

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