コラム
2014年02月03日

還暦までの生き方、還暦からの生き方-「足るを知る」人生の分水嶺

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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最近、還暦を迎えた。以前であれば「定年退職」となり、人生の大きな節目となるはずだったが、定年延長のため、仕事は従来通り継続することになった。しかし、そうは言ってもやはりひと区切りだ。同期の仲間と会うと、おのずとこれまでの人生を振り返り、これからの人生をどのように生きるのかという話題が多くなる。やはり還暦は、人生のあり方を考える特別な年なのである。

これまでの人生は、将来の目標を設定し、それに向かって頑張る生き方だった。少し高い目標を掲げて努力する、目標が実現すると大きな達成感を感じ、また新たな目標に向かって進んでゆく、いわゆる「右肩上がり」の成長志向型人生だった。そこには充実感や自己実現といった“生きがい”もたくさんあった。

しかし、これからどのように生きるのかを考えると、違った生き方があるように思える。哲学者の内山節さんの『新・幸福論』(新潮社、2013年)の「まえがき」には、「目標」に関する面白い考察がある。『目標をもって生きること自体に虚無感がある/目標を達成してきた人たちの生き方が、未来の目標ではなくなっている/本当に幸せなら、幸せとは何かなど考えない/目標をもつ必要性がない幸せな生/目標をたてて前進していくというあり方自体が途上国型/成熟社会があるとすれば、それは目標などもたない社会のこと』と書かれている。

先日、東京の小石川植物園を訪れた。園内に大きなカリンの木があった。黄色い実はずっしりと重く、甘酸っぱい香りを放っていた。カリンの実が発する強烈な存在感は、まるで“今”を生きていると主張しているようだった。SMAPが歌う『世界に一つだけの花』の一節、『僕ら人間は/どうしてこうも比べたがる/一人一人違うのに/その中で一番になりたがる/(中略)/一人一人違う種を持つ/その花を咲かせることだけに/一生懸命になればいい』を思い出した。

私の還暦までの生き方は、社会の中で時間的・空間的に相対的な「生」だったような気がする。これからは、人生の“今”にもっと意識を集中したい。これまでが将来の目標にキャッチアップするための人生だとすると、還暦からの生き方は、将来の「生」ではなく、現在の「生」を生きる「目標もたない生」かもしれない。それは決して向上心を持たないということではなく、あるがまま自然体で「足るを知る」ことだ。私にとっての還暦とは、「明日のための今日」から、「今日のための今日」へと意識を変える、そんな人生の分水嶺でもあるようだ。




 
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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

(2014年02月03日「研究員の眼」)

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