コラム
2014年01月30日

シニアツアーと高齢者の働き方

櫨(はじ) 浩一

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1.広がるシニアツアー

50歳以上の選手が出場する日本プロゴルフ協会のシニアツアーは、2014年は全部で10試合が開催される予定だという。世界男子のプロテニスにもATPチャンピオンズツアーなるシニアツアーがあって、こちらは年齢制限がもっと低くて35歳以上だ。少し前の話だが、昔は悪ガキと呼ばれていたジョン・マッケンローが出場していた。久しぶりに見ると白髪まじりのおじさんになっていたが、やっぱり態度が悪く相変わらず悪ガキのままだったのが笑えた。

将棋の達人戦は1993年に創設された将棋界のシニア戦で、年齢制限が40歳以上だ。昨年の決勝戦は、羽生善治三冠と谷川浩司九段の対局だったから、現役バリバリで、シニアという感じはしない。創設当初に比べて棋士の寿命が延びたということなのかも知れない。囲碁の方には50歳以上の棋士が参加するマスターズカップがある。

それぞれの競技には、時期は異なるものの皆年齢的ピークがある。名選手、名棋士と言えども、齢を重ねても現役の選手と戦って勝てるという訳にはいかないが、往年の名選手のプレーを見るのはまた別の楽しみがある。

2.高齢者就業の課題

日本の人口構造は今後も高齢化が進む。年金や医療・介護などの社会保障制度を維持するための負担が高くなりすぎないようにするためには、原理的には高齢者が働いて所得を得られれば良い。

一昔前は一般的な定年年齢まで、今後は高年齢者雇用安定法で雇用確保が義務づけられる年齢までを、大ざっぱに就業年齢人口と考えることができる。総人口に占める就業年齢人口の割合は、もしも60歳定年のままだったとすれば既にかなり低下していたはずだ。65歳までの雇用確保措置が義務化されたことで、就業年齢人口割合の低下はかなりゆっくりになった。さらに2020年までに70歳までの引き上げが行われれば、就業年齢人口割合の低下は2050年でもごくわずかで済む。計算上はこれで高齢化の悪影響を相当打ち消すことができるはずだ。
就業年齢人口割合の推移
しかし、現実には多くの企業が高齢社員の活用方法に苦慮しており、日本経済全体でもせっかくの労働力を十分生かせずにいる。高年齢者雇用安定法で表面的には高齢者の雇用が進んだものの、若年の雇用に悪影響が出ているように見える(2013年2月当コラム「改正高年齢者雇用安定法の施行と若年失業」参照)。

高齢者が働けば良いというアイデアを実現するためには、日本の経済・社会の中で、これまでとは違う高齢者の働き方を考えるが必要があるのだろう。

3.政府が高齢者活用の範を示せ

組織の中でどこまで階段を上ることができるかは努力だけでなく運も働くので、最終的なゴールは人それぞれだ。とは言うものの筆者が働き始めたころには、サラリーマンの辿るライフコースには大ざっぱなイメージがあった。しかし現在では昔に比べて選択肢ははるかに多くなっているが、不確実さが大きくなり、多くのサラリーマンは自分がいつまで働いて生活を支えることができるのか不安を持っている。高齢になっても、こんな感じで働いて生活を維持できるという、生涯の働き方のイメージを作る必要があるだろう。

シニアツアーやシニアリーグといった方法は、組織の中で高齢者が年齢に合ったペースで仕事ができる働き方を考えるヒントになるのではないか。年齢をはっきり区切ったシニアツアーが、競技の世界でできたのは体力がより重要な要素だからだろう。サラリーマンの仕事は体力だけでなく経験も大きな要素だが、残念ながら歳をとっても20代、30代のころと同じようなスピードで仕事を処理するという訳にはいかない。高齢者が生産性に合致した所得を得るようにするには、年齢に応じた相応の働き方ができることも必要だろう。

もちろん高齢者が活躍できる方法は一つだけではないから、政府が方法を決めて民間に押し付けるような類のものではない。しかし、政府自身も大量の職員を抱えており、巨大な使用者として高齢者をどう活用するかは政府自身にとっても大きな課題である。まずは高齢者を活用することがコストではなく、社会にとって経済的にもプラスであることを、政府組織が自ら示すことから始めてはどうだろう。
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(2014年01月30日「エコノミストの眼」)

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