コラム
2014年01月29日

消費者の“情報武装化”がもたらしたもの

経済研究部 シニアエコノミスト   上野 剛志

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近年、消費者の行動は大きく変化した。それは、新しいモノやサービスを購入する際、事前に評判や価格相場をインターネットで調査することが日常的になったという点だ。例えば、商品の評判であれば“amazon.co.jp”で、居酒屋やレストランの評判であれば“ぐるなび”で、家電の相場価格であれば“価格.com”で、という具合だ。これらのサイトは事実上、社会的インフラとしてのポジションを獲得している。これはインターネット環境の拡大、とりわけ近年のスマホ普及によって、“いつでもどこでも簡単に”、大量の商品・サービス情報を得られるようになったためである。実際、内閣府の消費動向調査によると、2013年3月時点の世帯普及率は、パソコンで78.0%、携帯電話で95.0%に達している。また、携帯電話のスマホ化が進んでおり、総務省の通信利用動向調査によれば、2012年末時点のスマホの世帯保有率は49.5%に達している。

過去を振り返ってみると、十数年前、筆者が学生だった頃は、事前情報の入手はかなり限られていた。当時はパソコン普及率が15.6%(1995年3月時点)に過ぎず、スマホはおろか携帯電話すら殆ど普及していなかった時代だ。つまり、インターネット環境はほぼ未整備の段階で、情報源は専ら情報誌やチラシ、店舗の従業員に限られていた。これら情報源はそもそも販売を目的としていることが多く、必然的に商品などの良い部分のみを宣伝したものが多くなる。また、価格を調べる際も、複数のチラシを比較検討したり、複数の店舗を回ったりするなど、多大な手間がかかった。口コミは当時も重要な情報源として存在していたが、本当の意味の知人からの口コミに限られていたため、その知人の主観に大きく依存した情報であった。
   このような環境では必然的に中立的な情報が限られ、売り場の販売員との間に大きな“情報の非対称性”が存在した。つまり、売り手優位の状況である。一方、現在はインターネットとスマホの普及によって、消費者はネガティブ情報を含めた多くの情報を簡単に入手できるようになった。一つ一つの口コミの信頼性は高くなくとも、それが大量に集まることによってある程度は平均化される。つまり、消費者が“情報武装化”し、売り手側との間の“情報の非対称性”は大きく縮小した。
   この消費者の情報武装化が消費者・企業に及ぼす影響を考えてみよう。
   消費者の側は明らかにメリットが大きい。まず、事前に効率的な下調べできることで買い物時間が短縮できる。また、事前にインターネット上の評価を調べることで、自分の好みにあったモノやサービスを見つけやすくなり“買い物の失敗(こんなはずではなかった)”が減少したはずだ。価格比較サイトで他店の価格を調べることで、販売員との価格交渉を優位に進めることも可能になった。
   デメリットについてはあまり見当たらないが、あえて言えば、買い物に驚きがなくなったことだろう。事前にある程度品質や価格についての情報が得られることで期待が形成され、たとえ良いモノ・サービスであっても、「想定の範囲内」になってしまう。昔のように「よくわからないから適当に買ってみたら、予想以上に良いものだった」という経験は減っているような気がする。

次に企業側への影響を考えると、なかなか一概には言えない。まず、情報が消費者に行き渡りやすくなったことで、市場での“弱肉強食化”が起き易くなっている。すなわち、メーカーの場合は製品の品質・価格が、サービス業の場合は扱う商品や提供するサービスの品質・価格がシビアに評価される。消費者に高く評価されたモノやサービスは、インターネット上で広く周知され、売上の拡大が見込まれる一方、低く評価されてしまうと消費者に敬遠されてしまう。このことはある企業にとってはメリットだが、別の企業にとってはデメリットになる。
   しかし、捉えようによっては全ての企業にとってのメリットもある。それは、良いにせよ悪いにせよ、自社のモノ・サービスへの評価が入手しやすくなったことだ。そもそも、日本の消費者は、モノ・サービス提供者に面と向かって本音を言わない傾向が強い。たとえ不満があったとしても表には出さず、単に二度と買わないという消費者が多い。この場合、企業にしてみれば店舗での顧客の反応だけでは何故売れないのかがよくわからない。インターネット上では本音の評価が無料で溢れているだけに、その情報を自社のモノ・サービスの改善のために活用することは容易だ。
   もし、多くの企業がネット上の消費者の声を改善に役立てれば、より良いモノ・サービスが供給されることになり、消費者にとってのメリットにも繋がる。

最後に一部企業にとっての深刻なデメリットについて述べたい。それは、国内外問わず、家電分野などで既に問題化している小売店の“ショールーミング(ショールーム化)”だ。具体的には、消費者が購入を検討する際に店舗において現物の感触を確かめるが、その店舗では買わず、より販売価格の安いインターネット通販で購入するという行動のことである。一般的にネット通販には「安い」という利点がある一方で「現物確認が困難」という欠点があるが、その欠点を補った上で利点を享受できるという意味で、ショールーミングは消費者にとって合理的な行動と言える。
   一方、ショールーミングの影響は企業の業態によって異なる。まずメーカーにとっては、利益率さえ確保できれば、どこで売れようがあまり関係がない。また、飲食やホテル業などの一般的なサービス業にとっても、現地生産・現地消費というサービスの特性上、ショールーミングは起こらないはずだ。しかし、商品を仕入れて販売するという業態の小売業にとっての影響は大きい。扱う商品は同一だが、実際に店舗を構えて販売員を雇うコストがかかるため、価格競争力という点では、これらコストのかからないネット通販に分がある。店舗を持つ従来型小売業間では競争力の源泉であった立地や品揃え、販売員のアドバイス力が、皮肉にもショールームとしての魅力を高めてしまうというジレンマもあると思われる。

現在、国内外の大手家電量販店などは、“店舗と自社ネット販売サイトを融合したサービスの提供”や“交渉による他社最低価格への値引き(ポイント付与も含む)”、“独自商品の開発”といったショールーミング対策を次々と打ち出している。これらの取り組みが奏功することで、従来型の小売業とネット通販業が住み分けし、共存できるのかどうか、従来型小売業の底力が試されている。

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上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融、日本経済

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