2014年01月10日

対岸の火事でない中国の環境問題-日本のとるべき行動は?

  大山 篤之

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現在の中国は、「環境問題のデパート」と呼ばれるほど、あらゆる環境問題や環境破壊が同時的かつ複合的に発生しているといわれている。この状態に対し、中国政府も手をこまねいてばかりいるわけではなく、2008年3月には、中国国務院機構改革で国家環境保護総局を環境保護部に昇格させ、また、「第12次五ヵ年計画」期(2011年~2015年)における戦略的な振興産業の一つとして『省エネ・環境産業』を位置づけた。しかし残念ながら、矢継ぎ早に打ち立てる政策効果以上(もしくは同程度)のスピードで環境汚染が進んでしまっているのが現状かもしれない。

昨今、よくニュースで目にする北京市内のスモッグはその象徴的なものだろう。この大気汚染の含有物のなかで大半を占めるPM2.5について調べてみると、その大きさは髪の毛の太さの1/30程度と小さく、肺の奥深くまで入りやすいため、呼吸系への影響に加え、循環器系への影響が心配されるとある。中国当局の発表では、北京市内の大気汚染状況は十数年連続で改善されているとするが、大気の流れの強弱に左右されるため実状は把握しづらい。ただ、大気汚染の状況を表す大気質指数(Air Quality Index)は深刻な汚染の「最高級」(レベル6)となる日も少なくない。レベル5(とても有害な日)に至っては、2013年1月から6月までの半年間(181日)の内、実に68日間(約40%)が該当するとした集計もある。


AQI指数と汚染状況


そもそも環境改善投資は、土壌汚染といった局所的な汚染を除けば、外部効果という問題を有している。外部効果とは、自国が行った環境改善投資から得られる便益は隣国にも共有される(視点を変えれば、自国の環境汚染は隣国に拡散する)というもので、地球温暖化といった最も大きな外部効果を有する汚染問題ほど環境改善投資は遅れ、事態が深刻化しやすい。大気汚染についても、汚染拡散域内の各国は足並みをそろえる必要があり、協力体制の確立がなければ、事態の収束は難しい。中国という巨大な環境市場への先駆者利益と日本の最先端技術の流出コストを天秤にかけ、傍観している節がある日本も、越境汚染という形で影響を受け始めている。もはや対岸の火事ではない。

ただ、他国の環境問題を自国の環境問題として捉え、この問題に取組むのはいささか日本が割を食う形に見え、心中穏やかでないかもしれない。しかし、実は理論上、環境協力・援助の枠組みさえ整えれば、越境被害の回避だけでも十分に両国の社会的厚生は高められ、自然と早期に域内の環境改善が促される。これは、両国間において、自然環境に対する効用に乖離があればあるほど、有効である。例えば、成熟した社会の多くが、食の安全に高い価値を見出し、居住する町並みに自然との調和や美しい景観を求め、追加的費用やごみの分別といった労力を厭わないことを考えれば納得いくことだろう。

大気汚染による深刻な公害被害が発生する前に、日本の環境技術を活用し、環境問題解決に尽力すべきなのではないだろうか。中国には、「喝(吃)水不忘?井人 (水を飲む人は井戸を掘った人を忘れない)」といった故事がある。お互いに問題を共有し、そして協力して取り組むことは、今後の両国の中長期的な関係改善や信頼関係の構築にもつながるかもしれない。日中間を飛来する大気汚染とともに、日中間の不穏な雲行きも晴れることを信じたいものである。


 
  中国の環境保護・省エネルギー産業の動向Clair Report No.382(Mar 13. 2013) (財)自治体国際化協会 北京事務所
  M. Tsujimura and A. Ohyama, “Induced Effects and Technological Innovation with Strategic Environmental Policy” European Journal of Operational Research Vol.190 Issue3 834-854P 2008年
  飛来状況が把握できるサイト【PM2.5分布予測】(日本気象協会): http://guide.tenki.jp/guide/particulate_matter/ また、日本各地の測定値(環境省大気汚染物質広域監視システム): http://soramame.taiki.go.jp/
  社会的厚生とは(世界大百科事典 第2版より)、ある社会状態から人々が享受する厚生(主観的満足の数値的尺度) のこと。
  A. Ohyama and M. Nishihara “Optimal Aid in Environmental Policy: A Real Options Approach“ The Kyoto Economic Review Vol.77 No.1 21-50P 2008年

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