コラム
2014年01月06日

家族の力と住宅の力-ハウスメーカーが提案する「実家力」

  松村 徹

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お盆や正月に故郷に帰ることを「帰省」といいますが、元来は故郷に帰って親の安否を気遣うことを意味する言葉だそうです。また、生まれ故郷に限らず、親の元を訪ねることを「実家に帰る」といいます。必ずしもその場所で生まれ育ったわけではなくとも、親が現在生活している住まいが「実家」というわけです。戦後一貫して地方から大都市への人口流入が続いたため、都市化二世や三世の世帯では、実家が都市部のマンションというケースも珍しくなく、私の子供たちもそうです。

昨年、あるハウスメーカーが「都市の実家」と名づけた新しい二世帯住宅プランを発表しました。これは、都市部で1970年代に建てられた戸建て住宅の建て替えを考える親世帯のために、同居していない子供世帯も含めた家族や地域との交流を深める「実家力」を備えた住宅を提案するものです。同居家族に迷惑をかけないよう、将来の介護サービス利用に配慮した住宅である点も今の時代を反映しています。

この「実家力」をことさら意識したわけではないのですが、私が数年前にマンションを購入した際、子供たちや孫たちが集まりやすい住まいにしたいという気持ちから、家具の置けない狭い和室をなくしてリビングを広げました。また、みんなが使いやすい形のキッチンも住宅購入の決め手のひとつでした。あくまで成り行き上でしたが、現在、夫婦の寝室以外は子供たちの持ち物を置く納戸と宿泊用の部屋になっています。ペットも飼い始めたので、賃貸住まいで動物が自由に飼えない子供たちや孫たちは、実家に行けば可愛い猫たちと遊ぶことができます。

また最近、臭いや煙、油などの汚れを気にせずホットプレートを囲んでみんなで焼肉ができるよう、ダイニングの照明をフィルターと換気扇の付いたペンダントライトに交換しました。さらに、子育て中の子供一家は徒歩5分圏内に呼び寄せ、ハウスメーカーなどが提唱している「近居・育孫」を実践しています。欲をいえば、大きな災害時に家族みんなの避難所にもなるよう、免震構造で防災備蓄が十分にあり、電気や水道が途絶えてもしばらくはトイレが使えるような最新型マンションだったなら、もっとよかったかもしれません。

これらはあくまで私がマンションで試みた「実家力」向上策ですが、他にもいろいろなアイデアがあるはずです。また、家族形態が急速に多様化しているだけに、求められる実家のあり方自体も変わっていくでしょう。かつては夫婦と子2人が標準的な世帯タイプでしたが、いまや少子高齢化で単身世帯が最も多い世帯タイプとなる一方、減少する夫婦と子世帯では高齢化が進んでいます。単身世帯が標準となった社会では、将来、血縁ではない新しい「実家」が必要になってくるかもしれません。たとえば、様々な世代の個人や家族が助け合いながら暮らす集合住宅としてコレクティブハウスという仕組みがありますが、最近注目されているシェアハウスという住まい方も、血縁ではない新しい「実家」になれる可能性がありそうです。

これまで、ハウスメーカーやマンション事業者は、幸せな暮らしをサポートするため、変化する家族形態にふさわしい様々な住まいのカタチを提案してきました。「都市の実家」以外にも、親世帯と子世帯、親世帯にいる単身の子(子世帯夫婦の兄弟姉妹)が一緒に暮らす「2.5世帯住宅」が話題になりました。この他にも、子育て支援の戸建て住宅やマンション、熟年夫婦と単身の子が同居する「おとな3人世帯」向けリフォームなど多彩な企画がいくつも発表されています。しかし、家族の信頼関係や豊かな人間関係を築いていくのは私たち自身です。そこに住むだけで、冷え切った夫婦仲が良くなったり、子供の頭が良くなったりする魔法のような住宅があるなら誰も苦労はしません。在宅介護がやりやすい住宅は設計できますが、家族の想いやこころの在りようまで変える住宅の設計は難しいでしょう。家族の力がしっかり備わっていて、はじめて住宅の力も発揮されるのであって、その逆ではないのは言うまでもありません。


 
  2013年8月5日に旭化成ホームズが発表したもの。詳しくは、同社の以下ニュースリリース資料をご覧ください。
 http://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/press/20130805/index/
  伴侶を亡くした高齢の単身世帯だけでなく、未婚の単身世帯も増えています。1965年の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合)は男性が1.5%、女性が2.5%でしたが、2010年には男性が20.1%、女性が10.6%と急増しています。2020年には男性が26.6%、女性が17.8%になると予想されています。

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