コラム
2013年12月19日

アセアン諸国の有望投資先としての位置づけが一段と向上-国際協力銀行の最新調査結果を踏まえての印象点

平賀 富一

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13年11月29日、国際協力銀行(JBIC)による「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告:2013年度海外直接投資アンケート調査結果(第25回)」が公表された。本調査は1989年以来毎年実施されており、その中に日本企業(製造業対象)による「中期的(今後3年程度)有望事業展開先国・地域」に関する設問および回答結果の集計(同調査報告書p.20:下図参照)があるが、今回の結果は例年にも増して興味深い内容となっている。


「中期的(今後3年程度)有望事業展開先国・地域」に関する設問および回答結果


国・地域の得票率の順位において、92年に同設問が開始以来初めて、インドネシアが首位にランクされ、他方、92年から首位を継続してきた中国が4位になった。また3位にタイ、5位にベトナムという上位の「常連」に加え、ミャンマーが8位、フィリピンが11位と順位を上げ、ラオスも初めて20位に入った。その結果、ブルネイを除くアセアン(東南アジア諸国連合)の9カ国が上位20カ国入りしたことになり、巷間様々な媒体で指摘されてきた日本企業によるアセアンシフトの傾向が、明確に現れた形になっている(上記以外のアセアン諸国のランキングは、マレーシア12位、シンガポール16位、カンボジア17位である)。


今回の調査結果を見ての印象を総論的にいえば、これまで首位を独走してきた中国について、人件費の高騰など投資環境の相対的な魅力低下が見られる一方、アセアンは6億の人口規模を有し経済発展により富裕層・中間層が増えており、親日的な国が多い等の点で、有望投資先としての重要度がより増しているといえる。以下幾つかの注目点に触れたい。

インドネシア・ベトナム・フィリピンは、「チャイナ・プラス・ワン」戦略の重要対象国として、人口が多く、しかも若年者が多い。その結果、人口ボーナス(人口構成において、生産年齢人口が従属人口(高齢者と子供)より多く豊富な労働力で高度の経済成長が可能)を長く享受でき、労働コストも中国やマレーシア・タイなどに比べ低廉であることが高評価のポイントと思われる。特に初の首位となったインドネシアについては、政治の安定化傾向、経済発展による中間層の増大傾向の中で、アセアン最大の人口(2.4億人)を有する国であることが、同国市場をターゲットとする企業(サービス業も含む)にとっての重要性や魅力となっている。近年有望投資先として再評価されつつあるフィリピンは英語が通じるメリットが大きく、BPO産業(会計・財務などの事務作業、アニメ制作、ソフトウェア開発、コールセンター等)の重要な拠点にもなっている。


次に、アセアンでの経済発展度が高い3国に関して述べれば、タイは言うまでもなく、自動車産業を代表とするわが国企業の一大集積拠点としての重要性が大きく、過去クーデターや洪水などがあっても日系企業の進出は増加トレンドを示してきたが、現状の政情不安再燃による経済・投資面への影響が注目される。 マレーシアは、一人当たりGDPが1万ドル水準を超える経済発展の中、産業の高度化を志向しており、日本企業の進出も小売業(同国2位のイオンが代表)や外食、金融など各種サービス業の進出、英語が広く通じる環境を活かしたアセアン域内における事務・サービスや従業員の教育拠点化の動きなどが目立っている。またイスラム教徒の市場開拓や同教信者の訪日観光客の受け入れには、イスラムの教えに沿った食品等であるハラルについての理解と対応が必要であるが、同国はその点で他をリードしている。シンガポールは、一人当たりGDPがわが国の水準を超え、アセアンのみならず国際的な金融センター・ビジネスセンターとして、地域統括本部や調査・研究拠点としての位置づけが大きくなっている。さらに、進んだITの利活用などわが国が参考にすべき点も多い。


アセアン諸国(除ブルネイ)の概況


さらに、アセアンに遅れて加盟したカンボジア(C)・ラオス(L)・ミャンマー(M)のCLM諸国は、経済発展は後発であるが労働コストが未だ低廉であり、タイに拠点を置く企業が労働集約的な業務を3国に移す「タイ・プラス・ワン」という動きが特に注目されている。

アセアン諸国は、国情、経済発展の段階や抱える課題も様々であるが2015年のアセアン経済共同体のスタートに向けて連携を強化しており、その動向は日本のみならず、米中韓など多くの諸国からも注目されている。おりしも先週末には、両者の友好関係樹立40周年の節目として日・ASEAN特別首脳会議が東京で開催され、パートナー関係の一層の強化などわが国とアセアンとの関係強化の機運がより高まっている。生産・販売等企業活動のみならず、アセアン諸国それぞれのニーズに沿った経済・産業の発展やインフラ強化面の協力・支援に加え、アセアンからの訪日観光客の増加などの期待も大きい。かつてドラマ「おしん」が各国で人気を集め、インドネシアでは、五輪真弓さんの「心の友」が広く知られているが、今後の「あまちゃん」のタイでの来年上期からの放映予定や世界遺産(無形文化遺産)に決まった和食の普及など広く文化面の交流も含めた多面的な関係強化の推進によって、若い世代を含めたアセアンの各層に日本への親しみと信頼を拡げていくことが大切と考えられる。

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