コラム
2013年11月26日

個人の資産形成を見直す契機に

金融研究部 年金総合リサーチセンター 企業年金調査室長   梅内 俊樹

文字サイズ

昨年の政権交代からおよそ1年が経過し、日経平均は60%強上昇し、円ドルレートも20%強円安が進みました。こうした市場環境の改善を受け、個人の投資行動にも変化が見られ始めています。株式などのリスク性金融商品への投資資金の流入拡大です。そして来年1月にスタートするNISA(小額投資非課税制度)によって、個人資金の一層のリスク性資産への投資拡大が期待されています。

NISAは、「株や投資信託(投信)などの運用益や配当金を一定額非課税にする制度」で、専用口座で取引をすると税金面で大きなメリットを受けられるところに最大の特徴があります。この制度を最大限活用すれば、最長14年間にわたって、このメリットを享受できるため、NISA導入をきっかけとして、リスク性金融商品への積極的な投資が期待されているのです。

「貯蓄から投資へ」という家計から企業への資金供給を促すための取り組みは随分前からも議論されてきましたが、日本国内の家計が保有する金融資産1500兆円の大半が預貯金に眠った状況に、大きな変化が見られなかったというのが過去の経緯です。ただ今回は、“アベノミクス”のもとでの市場環境の好転と、息の長い良好な経済環境への期待という追い風もあり、投資に対する個人の姿勢が大きく変ることに期待が寄せられているのです。家計から企業への資金供給が拡大すれば、経済が成長し、家計も潤い、さらなる投資につながるという好循環が生み出される可能性が高まるという意味でも、来年以降の個人マネーの動向が注目されるところです。

ただし全ての個人にとってリスク性金融商品への投資増大が適切かと言うと、必ずしもそうとは言えません。リスク性資産への過大な投資を慎まなければならない代表的なセグメントとして退職後世代をあげることができます。退職後世代は、毎年の収入は年金に限られ、一定水準の消費を維持するためには、毎年一定額の資産を取り崩していくことが必要となります。こうした資産取り崩し期に、高いリターンが期待できる半面、想定に反して投資元本を割り込むリスクのあるリスク性金融商品に過大な投資をする場合、マイナス面も大きいためです。

下の図は、退職時に100の金融資産を保有しているとし、毎年5の資産を取り崩して消費水準を20年間維持していくことを想定したとき、株式などのリスク性金融商品への投資割合によって、金融資産が枯渇する確率を5%未満に抑えられる年数に、どの程度の違いがあるかを見たものです。言い換えれば、借入れに頼らなくても消費水準を95%以上の確率で維持できる年数がどのくらいかを、簡単な数値計算によって試算した結果です。

投資対象を預金と株式とし、預金の利率は0%、株式から得られる配当と値上がり益を合わせた利率が平均で年4%、ただし株式から得られる利率には不確実性があり、年20%は平均から掛け離れた利率となる可能性がある(つまり4-20=-16%くらいの損失は普通に起こり得る)ことを前提としています。

試算結果を見ると、株式に10%投資する場合は、20年間にわたり金融資産が枯渇する確率を5%未満に抑えられますが、株式投資割合を増やすと、金融資産が枯渇する確率が5%未満となる年数が短くなり、株式100%では12年後にも枯渇する確率が5%となることになります。グラフにはありませんが株式100%のケースでは20年後に金融資産が枯渇する確率は35%にも達します。退職後は、リスク性金融商品への過大な投資は禁物というわけです。

もちろん余裕資金が十分にある場合はこの限りではなく、リスク性金融商品への投資の割合を増やことは可能です。ただ総じて資産を取り崩さなければならない退職後においては、消費水準の向上を目指したリスクの大きな資産運用には大きなリスクが付き纏うことを理解しておく必要があります。

逆説的ですが、退職後の生活水準の向上を目指すのであれば、現役時代に如何に資産形成を計画的に進めるかが重要になります。試算例で言えば、退職時の金融資産が100よりも多くなるように、若いうちから計画的に積み立てることが必要になるのです。今回の新たな制度の導入は、特に若い世代の方々にとって、自らの資産形成の在り方を見直すいい機会になるのではないでしょうか。

41186_ext_15_1.jpg

このレポートの関連カテゴリ

78_ext_01_0.jpg

金融研究部   年金総合リサーチセンター 企業年金調査室長

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
リスク管理、年金運用

レポート

アクセスランキング

【個人の資産形成を見直す契機に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

個人の資産形成を見直す契機にのレポート Topへ