コラム
2013年11月15日

高齢者雇用改革、「いつやるか? 今でしょ!」

生活研究部 主任研究員   松浦 民恵

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11月12日に、労働政策研究・研修機構(以下、JILPT)から、改正高年齢者雇用安定法への対応等に関する調査結果が発表された。このなかで、2013年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法について、対応前後の雇用確保措置が比較されている。

改正高年齢者雇用安定法は2013年4月に施行された。改正前から、65歳までの雇用確保措置として「定年の定めの廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれかが義務付けられていたが、改正後は、労使協定による基準該当者のみを「継続雇用制度」の対象とすることが認められなくなり、企業は、原則として希望者全員を65歳まで雇用しなければならなくなった。

従来から多くの企業が実質的には希望者全員を65歳まで雇用しており、改正法の施行によって、雇用確保措置が大きく変更されるとは考えにくかった。実際に、JILPTの発表内容をみても、「定年の定めの廃止(定年がない)」「65歳以上への定年の引き上げ」「60~64歳までの定年と、定年後の継続雇用制度」について、対応前は各1.9%、10.0%、87.1%、対応後は各1.8%、12.9%、83.0%と大きな変化はない。

ただし、企業の高齢者雇用のあり方が、今後も現状のまま維持されるのかという点については、かなり疑問がある。その理由を4点述べたい。

1点目は、高齢者雇用が抱えるジレンマ。現状においては、再雇用か定年延長かにかかわらず、同じ仕事をしていても、60歳を境に労働条件が大きく低下するケースが一般的である。このようななか、60歳前と同じ仕事を担当してもらったほうが高齢者の経験やスキルが効果的に活用できる一方で、同じ仕事をしているのに労働条件だけが大きく低下することに対して納得を得られにくいというジレンマがある。高齢者雇用は、長年こうしたジレンマを抱えながら続けられてきたが、今後、60~65歳までの期間が完全に無年金になっていくなかで、論理的な説明が難しい労働条件の低下に対して、高齢者がいつまでも寛容であり続けるとは限らない。

2点目は、政策的観点からの定年延長の議論再燃の可能性。少子高齢化がさらに進行するなかで、社会保障の担い手を増やす必要性が一層高まってくることから、2013年の改正では見送られた定年延長の議論が再燃する可能性は否定できない。厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢引き上げが完了する2025年前後のタイミングで、政策的な観点から、高齢者雇用の再考が促されるかもしれない。

3点目は、企業の年齢別人員構成の問題。今後、従業員に占める60~65歳の割合が高まり、企業にとって60~65歳の人材活用が、より重要なテーマになってくる可能性が高い。特に、60~65歳が完全に無年金になる頃に、多くの企業でバブル期に大量採用されたバブル入社組が60歳以降に突入し始めることに留意する必要がある。60歳以前と同じ仕事で労働条件だけ低下させる、という現状のまま、バブル入社組が60歳以降に突入すれば、老後保障の観点からも、人材活用の観点からも深刻な状況になる懸念が大きい。

4点目は、企業にとっての、多様な人材の活用の必要性の高まり。多様な人材の活用を進めていくためには、働き方の改革のみならず、人事制度の見直しが不可欠であり、そのなかで高齢者雇用の改革も、当然検討の俎上にのぼってくるだろう。

高齢者雇用は、以上4点の理由から再考を求められる可能性が高い。表面上、雇用確保措置はまだ大きく変更されていないが、現状のままではもたないと考えている企業は少なくないのではないだろうか。一方、60歳以降も60歳以前と共通の人事管理を適用しつつ、中堅・若手社員の納得も得られるようにしていくためには、人事制度の大改革が必要になる可能性が高く、実現には相当の調整期間を要することになろう。

ここまで考えると、企業に残された答えは自ずと見えてくる。カリスマ予備校講師・林修先生の言葉を借りれば、高齢者雇用改革、「いつやるか? 今でしょ!」という話である。


 
 労働政策研究・研修機構『「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」結果』(2013年11月12日)より。
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生活研究部   主任研究員

松浦 民恵 (まつうら たみえ)

研究・専門分野
雇用・就労・勤労者生活、少子高齢社会

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