2013年11月08日

ドイツ総選挙と欧州債務危機-日本への教訓

櫨(はじ) 浩一

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1-メルケル首相続投へ

ドイツで9月22日に行われた総選挙は、その結果が今後の欧州経済情勢、さらには世界経済の行方を左右する重要な選挙だった。

メルケル首相が率いるCDU・CSU(ドイツキリスト教民主・社会同盟)が、前回の選挙から大きく票を伸ばし、圧勝で第一党の座を維持したものの、連立相手のFDP(自由民主党)が惨敗して議席を失い、過半数の獲得はできなかった。現政権よりも南欧支援に柔軟な最大野党のSPD(社会民主党)と連立を模索していると報道されている。

ドイツの総選挙が終わるまで、ギリシャへの追加支援や銀行同盟などの懸案事項は先送りされてきた。欧州債務問題は一息ついているが、まだまだ多くの火種を抱えている。欧州債務危機は、著しい経済力の格差がある国々が、ユーロという同一の通貨を使うことに根本的な原因がある。統一通貨であるユーロを維持するためには、最も経済力のあるドイツが生産性の低い国々を財政的に援助し続けることが不可欠だ。


2-内向きになるドイツ

ユーロ発足後低迷の続いたドイツは、一時は「欧州の病人」と呼ばれるほどだったが、構造改革によって復活を遂げた。Financial Times紙には、このところドイツの選挙に関する記事がいくつも掲載されているが、ドイツの経済運営を称賛しつつも、世界第四の経済大国であり、ユーロ圏の中でますます存在感を高めるドイツの国民が、自国のことばかりを心配してユーロ圏の将来や世界の問題に関心がないことに懸念を示すものが目立った。

メルケル首相は、南欧諸国の支援には厳しい条件を付けつつも、統一通貨ユーロを守る姿勢を維持し続けている。債務国の切り捨てやドイツのユーロからの離脱という選択肢も、反対のユーロ圏の経済統合の劇的な進展という選択肢も、どちらの方向の大胆な方策をも選ばず、慎重な対応に終始してきた。国際社会からは常にドイツの抵抗で問題の解決が遅れたという批判を浴び続けているが、ドイツ国民からは、国益を守りつつ欧州内での孤立を回避するという堅実な路線が支持されたことになる。

筆者が最も心配しているのは、ユーロ圏からの離脱を訴えた新党AfD(ドイツのための選択肢)のような過激な政党の台頭だ。今回の選挙では南欧支援に対する有権者の批判票を集めて、もう少しで議席を得るところだった。新たな連立によってより支援に柔軟になれば、南欧支援反対者がこれらの過激な政党の支持に流れる恐れもある。


3-日本への教訓

さて日本経済は1990年代以降経済の低迷が続き、人口高齢化による社会保障制度の行き詰りも懸念される。ドイツのように経済が復活したわけでもないし、財政状況は雲泥の差だ。日本国内の問題を解決するので精一杯という気分になるが、それで良いだろうか?

総選挙を通じて内向きになっているというドイツ国民への批判は、世界第三位の経済大国である日本の住民には耳が痛い。ドイツはとやかく言われつつもユーロ存続のためには無くてはならない存在だ。日本は世界を必要としているが、世界は日本をどう見ているだろうか。日本経済復活のためにグローバル化を推進する必要性があると叫ばれるが、日本のためということばかりではなく、世界のために日本は何をすべきかで、何をすべきではないのかも真剣に考える必要があるのではないか。

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