コラム
2013年10月15日

式年遷宮と超高層ビル - 「経済の時代」こそ「建築文化」育てよう!

土堤内 昭雄

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10月初旬、伊勢神宮の式年遷宮のクライマックスとも言える「遷御の儀」が行われた。第1回遷宮が行われたのは690年で、今回は62回目となる。今回の遷宮のための一連の行事は平成17年に始まり、内宮と外宮の正殿の建て替えの他に、神宝や装束など日用調度品も全て新調され、550億円以上の費用を要したという。こうして伊勢神宮では、戦国時代に一時中断したものの、1300年以上にわたり、古の建築様式をはじめとした伝統・文化を正確に今日に伝承しているのである。

20年毎に行われる遷宮だが、なぜ、20年毎なのだろう。伊勢神宮の式年遷宮広報本部の公式ウェブサイトには、『定説はないが、20年は人生のひとつの区切りであり、技術を伝承する合理的な年数』と記されている。また、『式年遷宮は建築物の朽損が理由ではない』とも書かれている。何故なら、木造建築であっても法隆寺のように千数百年の風雪に耐えることが可能だからである。つまり、神宮の「唯一神明造り」は、20年毎に造り替えることで、神道の精神の永遠性を目指したものなのだろう。

伊勢神宮の正殿の敷地は、東側が“米座”、西側が“金座”と呼ばれる。昔から正殿が“米座”にあるときは平和で心豊かな「精神の時代」、“金座”にあるときは波乱、激動の「経済の時代」になると言い伝えられている。経済の循環が式年遷宮と同調するとは限らないが、今後は“金座”への遷宮を機に、アベノミクスや消費税増税など激動の「経済の時代」になると予測するエコノミストもいる。

これから神さまが“金座”にいる20年間は経済の活性化が大いに期待される。例えば、東京では多くの築後20~40年に過ぎない超高層ビルの建て替え計画が進んでおり、同一敷地で、より高度な技術を駆使し、時代の先端を行く、より大規模な建築物に建て替えられていく。それは超高層ビル版「遷宮」と揶揄したくもなるが、「遷宮」との違いは、そこには先人の培った「建築文化」を継承する意思が感じられず、単に経済合理性に則ってスクラップ&ビルドを繰り返すようにしか見えないことである。

式年遷宮は建築物を建て替える経済活動ではなく、「建築文化」を伝えるひとつの優れた知恵である。「経済の時代」であっても、経済合理性だけを求めて既存の超高層ビルのスクラップ&ビルドを繰り返して良いのだろうか。20年後に行われる式年遷宮では、日本は超高齢社会を迎えており、それまでに財政再建を果たし、持続可能な社会保障制度を再構築し、誰もが安心して暮らせる社会づくりを目指さなければならない。次に神さまが“米座”に遷御する時、豊かな「精神の時代」を迎えるためにも、“金座”の「経済の時代」こそ、豊かな「建築文化」を育むことを忘れてはならないのである。




 
   東村 篤(四日市大学経済学部経営学科教授)『米座(こめくら)と金座(かねくら)~来年の式年遷宮は、金座へ遷御』
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(2013年10月15日「研究員の眼」)

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