コラム
2013年10月01日

営利法人事業者と“株式会社病院”- 介護保険の仕組みから医療制度改革を考える(5)

阿部 崇

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医療保険制度の3原則、「国民皆保険」、「フリーアクセス」、「現物給付」に関して、介護保険制度において対峙関係にある仕組み、「要介護認定」、「ケアプラン」、「費用給付」との関係性を考察してきた。

ここでは、3原則には入っていないが、医療保険制度における「医療の非営利性・公益性」にかかる論点に触れたい。現在、医療保険体制を担う医療機関は、営利目的での開設を制限した1948年施行の医療法第7条の規定に従い、ほとんどが営利性のない医療法人等または個人により運営されている。(一部例外として、同法施行前に開設されたもの、また、旧三公社等の民営化に伴い営利法人運営となったJR東京総合病院、NTT東日本関東病院など) 他方、介護保険のサービス基盤を担うサービス事業所では、一部の医療系サービスを除いて法人規制が撤廃されている。

さて、本稿の趣旨に戻って、介護保険制度に導入された「試み」とは何か。着目するのは、「法人規制の撤廃」という部分である。2000年4月にスタートした介護保険制度は、それまでの老人医療と老人福祉を統合したものである。特に、後者は自治体が中心となって担ってきたこともあり、社会保険として、義務(保険料負担)と権利(サービス利用)の仕組みに移行するにあたって、「保険あってサービスなし」、すなわち介護サービス不足に陥る懸念があった。その急場をしのぐ目的もあり、訪問介護や通所介護など利用ニーズが高いと想定された福祉系サービスを中心に株式会社等の営利法人の参入を法的にも認めたのである。これは、同じ社会保険制度という非営利性・公益性を基礎とする枠組みにおいて、医療とは正反対の仕組みを導入する試みと言える。

では、この仕組みは、医療保険制度においてどのような形となって現れるのであろうか。

端的に言うならば、“株式会社病院”の参入である。これまでの医療分野の規制改革の議論においては、先の混合診療の解禁に並んで幾度となく取り上げられた論点である。最近では、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の項目として、その行方が注視されているものでもある。株式会社等の営利法人による医療機関運営には、営利法人による競争原理が医療提供の質を向上させる、経営の観点から効率的な医療が提供される、等の賛成意見と、医療の非営利性・公益性に反する、不採算診療科・地域の切捨てにつながる、等の反対意見が激しく対立している。その是非は他に譲るが、介護保険制度における“試み”をどう評価すべきか。大雑把に言えば、数の確保は「及第点」、競争・淘汰による質の向上は「今一歩」といったところであろうか。

介護保険制度が“試み”として担ったのは、「社会保険制度への営利法人の参入」である。この点について、介護保険制度では、早急なサービス基盤整備という課題への対応として一定の効果はあった。一方、医療保険制度においては、株式会社病院への期待が数の確保ではなく、医療への経済合理性や効率性の定着であることを考えれば、医療保険制度への展開のエビデンスとしては道半ばであろう。


~最後に~
   今後も介護保険制度は3+1の4つの“試み”について、医療制度改革のための模擬実践の場としての役割が求められるであろう。ただし、“試み”をそのまま「横滑り」させるような改革ではなく、医療そのもの、また、医療保険制度に特有の課題に正面から向き合い、“試み”をカスタマイズしていくことこそが重要であると考える。




 
 主に保険医療機関が事業主体となる、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション等のサービス
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(2013年10月01日「研究員の眼」)

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【営利法人事業者と“株式会社病院”- 介護保険の仕組みから医療制度改革を考える(5)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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