コラム
2013年10月01日

費用給付と“現物給付”- 介護保険の仕組みから医療制度改革を考える(4)

  阿部 崇

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「現物給付」とは、保険給付において費用の給付ではなく医療サービスそのもの(現物)で給付されることである。入院や外来通院の場面では、ごく日常的で当たり前のことであるが、法律条文上も、「被保険者の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う(健康保険法第63条)」、「(略)、次の各号に掲げる療養の給付を行う(国民健康保険法第36条)」と定められている。“療養の給付”とは医療サービスの現物給付を意味している。

さて、本稿の趣旨に戻って、介護保険制度に導入された「試み」とは何か。着目するのは、条文中の「療養の給付」である。この点、介護サービスの利用場面でも、保険給付として介護保険サービスが現物で提供されており何ら変わりはないとも思える。しかし、介護保険法の条文では、「要介護被保険者に対し、(中略)介護サービス費を支給する(介護保険法第41条第1項)」という条文で費用給付であることが明記されている。そして、同条第6項で「市町村は、要介護被保険者が事業者に支払うサービス費用について要介護被保険者に代わり事業者に支払うことができる(一部略)」という代理支払規定(事業者側からみて「代理受領」)をおき、現物給付となるように手当てしているのが実態である。

介護保険制度で費用給付+代理受領の仕組みを採った理由は何であろうか。併せて導入されている支給限度額※1とも関係するが、保険給付の形式を法律上「費用給付」とすることで、実際にどれだけ介護サービスを利用したとしても保険給付は支給限度額まで、と取り扱うことを法律の規定として可能にしたことにある。これは医療保険制度における取り扱いの原則と例外を転換する試みである。

では、この仕組みは、医療保険制度においてどのような形となって現れるのであろうか。

端的に言うならば、“費用給付”への転換である。費用給付+代理受領の仕組みは上記の通りであるが、これによって最も影響を受けるものは、「混合診療」※2の取扱いであろう。一連の医療行為について保険診療と自費診療の混在を認める混合診療の全面解禁は、ここ数年の医療制度改革の議論の中で常に論点とされている。混合診療解禁の是非については他に譲るが、解禁反対(現状維持)の根拠となるのが現行法の現物給付規定なのである。医療行為は「現物給付」としての保険給付であり、その一部分を自費診療として切り離すことはできない、というロジックである。つまり、原則の転換は混合診療を可能にする法的な整備とも考えられる。

介護保険制度が“試み”として担ったのは、「保険給付の法律上の取り扱いの転換」である。誤解を恐れずに言えば、医療保険制度ではどうにも動かすことのできていない現物給付規定の反省にたって、介護サービスの現場はそのままに、原則と例外の転換をスムーズに行った介護保険制度の役割は大きい。

医療保険制度の3つの原則に作用する可能性のある介護保険制度の仕組みも一定の実績を積み、運用安定期に入っている。慎重の上に慎重を重ねた議論が前提ではあるが、仮に「要医療度」「ホームドクター制」「費用給付」の仕組みが医療制度改革の中で現実のものとなれば、医療保険制度の財源問題は一気に解消に向かうのではないだろうか。




 
*1 要介護度に応じて設定される1ヵ月間の給付上限額(例:要介護3の場合、月額267,500円)
*2 一連の診療で保険診療とともに先進医療等の保険外診療が行われること。現行制度では認められておらず、保険外(自費)診療が行われた場合、保険適用部分を含めて診療全体が自費扱いとなる。

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(2013年10月01日「研究員の眼」)

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