コラム
2013年09月30日

オリンピックの“おもてなし”とは - 多様な価値観受容れる「真のグローバル化」の実現

土堤内 昭雄

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まずは2020年東京オリンピック招致成功を喜びたい。日本全体が勇気と自信を取り戻した感がある。ただ、日本は7年後のオリンピックの成功に向けてなすべきことが山積している。9月のIOC総会の東京のプレゼンテーションはとても素晴らしかったが、そこで話題となったプレゼンターのひとり、滝川クリステルさんが語った“おもてなし”をどのように実現するのかも大きな課題のひとつだ。

人を「もてなす」とは『心をこめて客に対応する』ことだが、大会期間中の世界各国からの選手やゲストなど約1,000万人の来場者を「もてなす」ためには、一体、何が必要なのだろう。特に、外国から日本を訪れる人たちの人種、宗教、文化、習慣、価値観などが様々であることは言うまでもなく、その多様性を十分受容れることができるかどうかが“おもてなし”の鍵を握るのではないだろうか。

それは同時に日本人の価値観を揺さぶることにもなるだろう。ロシアでは今年6月に「反同性愛法」が成立し、ロシアを訪れる外国人にも適用されることになった。IOC(国際オリンピック委員会)は2014年ソチ・冬季オリンピック開催に当たり、同性愛者のスポーツ選手が国外退去させられるのではないかとの懸念を表明している。一方、最近では世界各国で「同性婚」に対する認知が進んでおり、昨年11月のアメリカ大統領選挙では、同性婚を認めるかどうかがひとつの争点になったほどだ。

アメリカのオバマ大統領は2009年1月の就任演説で、これまで「人種のルツボ」と言われてきたアメリカ社会の多様性を「パッチワーク」社会の遺産と表現した。「パッチワーク」社会とは、一つひとつの構成要素にそれぞれ固有の図柄があり、それがたくさん集まって全体を構成するもので、各ピースには独自性(アイデンティティ)があるということを意味する。

このように時代や地域により異なる価値観は、世界がボーダーレス化する中でますます多様になる。「真のグローバル化」とはグローバルスタンダードにすべてを統一することではなく、多種多様な価値基準がお互いに尊重され、共存することだ。価値観が変わるには長い時間を要するが、われわれはオリンピック開催を契機に、世界各国のあらゆる価値観を再確認することが求められるのではないか。

2020年東京オリンピックで日本を訪れる世界中のアスリートや観光客すべてを“おもてなし”するには、日本が確固たるアイデンティティに基づく価値観を有し、多くの来訪者に日本固有の文化・伝統をアピールし、同時に日本全体が自信を持って多様な価値観を理解し、受容れることが必要だ。日本が7年後に問われているのは、日本社会の「真のグローバル化」の実現という課題ではないだろうか。



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(2013年09月30日「研究員の眼」)

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