コラム
2013年09月13日

ネオ・ジェロントロジー ~ついに、「ジェロントロジー」が科研費対象分野に!

生活研究部 主任研究員   前田 展弘

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文部科学省及び独立行政法人日本学術振興会より、平成26年度の「科学研究費助成事業」(通称「科研費」)の公募要領が発表された(2013年9月1日)。科研費については、大学関係者や研究機関に従事する者であれば誰もが知る存在であるが、改めてその位置づけを紹介すると、科研費とは「人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる『学術研究』を発展させることを目的とした競争的資金」のことである。まさに日本の科学技術を推進するための重要な研究予算である。

その平成26年度の公募要領をみて、私は驚きと感銘を受けた。「ネオ・ジェロントロジー」という新たな分野が平成26年度から設定されることになったのである(具体的には、科研費の中の「基盤研究B・C」の中の「特別分野研究」として設定。設定期間は平成26~28年度)。ジェロントロジーを専攻する私としては、ようやくジェロントロジーが文部科学省(国)から正式に学術の「分野」として認められたように感じられ、非常に喜ばしく思ったところである。また、このことは単純に喜ばしいだけでなく、次の2つの点で非常に画期的であり意義深く受け止められる。

一つは、「ネオ・ジェロントロジー」である点だ。「ネオ(neo)」とは、ギリシャ語で「新しい」を意味する。したがって、今回の設定分野は「新しい(近代の)ジェロントロジー」ということになる。少し研究者間の話になってしまうが、ジェロントロジーの捉え方については、人によって若干異なる実態がある。ジェロントロジーの邦訳が私の知る限りでも30近くあるように(老年学、加齢学・・・)、捉え方は一様ではない。かつてのジェロントロジーは、「高齢者の加齢に伴う心身変化の適応」に関する研究が中心であったと認識しているが、現在の研究はジェロンテクノロジーと呼ばれる工学分野が新たに加わったり、何よりも「社会の高齢化に伴う課題解決」を目指すことに力点が置かれるようになり、日進月歩で変化と進歩を続けている。このことは、日本学術会議の提言「持続可能な長寿社会に資する学術コミュニティの構築」(2011年4月)でも指摘されている。おそらくそのようなジェロントロジーの進化の実態も踏まえて「ネオ」と付けられたことは非常に賛同できる。なお、現時点のジェロントロジーの邦訳は「高齢社会総合研究」が相応しいと考えている。
※「ネオ・ジェロントロジー」の設定主旨については、後記する「公募主旨」を参照いただきたい。

もう一つは、「特別分野研究」が新たに設定されたことだ。ネオ・ジェロントロジーは特別分野研究の中に設定されたものであるが、特別研究分野の設定自体が、平成26年度から新設されたのである。これまでの科研費が助成する研究対象(学術範囲の体系・分類表)は、「系>分野>分科>細目」から構成されていて、下表にあるように、「系」は4つ(総合系、人文社会系、理工系、生物系)、系の内枠に入る「分野」は14(人文学、社会科学、化学、工学、医学薬学等)、分野の内枠に入る「分科」は77(文学、法学、経済学、数学、生物科学、基礎医学、看護学等)、分科の内枠に入る「細目」は321ある。これだけ細分化され構成されているのだ。「特別分野研究」は、これらの既存の枠組みの内枠としてではなく、「未開のまま残された重要な分野、分野横断的な研究から生まれることが期待される分野」を対象として新設されている。このことが非常に重要と考える。ジェロントロジーは個人と社会の高齢化の問題を取り扱うが、「高齢化」の問題はまさに分野横断的にかつ総合的に捉えていかなければ解決できない。こうした分野がそもそもなかったから、ジェロントロジーが科研費の対象にはなかったということが言える。現代社会は、様々な要素が関連して生じる複雑な課題が多いだけに、これからはこうした分野横断的・総合的な研究を推し進めることが日本の科学技術の発展に大きく寄与するに違いない。その意味からも、特別分野研究が今後もさらに拡大していくことを期待したい。


高齢化最先進国の先頭を歩む日本であるにも関わらずジェロントロジーに対する社会的な認知は広がっているとは言えず、またジェロントロジーの研究者も僅かである。このような現状を鑑みればこそ、今回の科研費における「ネオ・ジェロントロジー」の設定を機に、ジェロントロジーに対する社会的な関心が高まること、またジェロントロジーを志す研究者がこれから多く社会に輩出されていくことを大いに期待したい。

科研費審査区分における特別分野研究とネオ・ジェロントロジーの位置づけ



<公募趣旨>(「平成26年度科研費公募要領」P57より抜粋) 

【ネオ・ジェロントロジー】

現在、わが国は、65歳以上人口の全人口に占める比率が23%を超えており、世界一の超高齢社会の様相を呈している。日本が経験するこれからの社会は人類にとって未曾有であり、日本の抱える課題は、現在、世界の最先端に位置する。

エイジング(個人の加齢、社会の高齢化)に関する諸問題は、これまで老年学(ジェロントロジー)によって探究されてきた。しかし、65歳以上を一律に高齢者、即ち、衰えていく者、としてとらえ、研究することには限界も指摘されている。高齢者の実態を調査すれば、経済的にも、生理的にも、指導力や文化的な存在としても、変わらず存在を維持している層と、社会的に弱い立場におかれ支援や援助を必要とする層など、いくつかの層に分かれることが様々な指標によって指摘されている。すなわち、高齢者も一様ではなく、極めて多様であるとの認識の上で行う基盤的研究である。また、これらの諸指標間の関連が単なる疑似相関なのか、因果関係を示すものなのか、個別に生じていることなのかといった点については、詳細な学術的検討が待たれる。

このように、多様な高齢者像の視点に立った「ネオ・ジェロントロジー」ともいうべき、新しい研究が、様々な分野で始まっている動向を捉え、本分野を設定した。

今後さらに進むことが確実視されている高齢者数の増加と社会の高齢化の現実に人類が適応するためには、社会構造全体における高齢者の役割を再確認し、その再割り当てを含めて分析する必要があり、高齢者を含む社会の側の変容にも注目されるべきものがある。そもそも老いとは何なのかを思想的に問うことも必要である。たとえば、〈老い〉の豊かさや価値についての歴史的・思想的・比較文化的分析、蓄積された経験が大きな資産となる暗黙知の伝承の民俗学的・文化人類学的考察、海外の高齢化に関する国際比較的分析、平均値ではとらえることのできない〈老い〉の個体差に関する心理学的究明、寿命の延長にともなう男女のライフコースの変化や年齢役割の変化、さらには人間の終末としての死に対する態度に関する死生学的研究、今後の社会政策が前提とすべき高齢社会の構造に関する研究、高齢社会の新たな段階における倫理に関する研究など、また、医学や工学分野においても、多様な高齢者像の視点のもとで、これまでにない高齢の構造の解明を企図する他分野との連携に立った研究など、あらゆる分野からの研究課題を募集する。

 

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生活研究部   主任研究員

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

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