コラム
2013年09月02日

消費税増税やインフレによる家計のダメージは意外と大きい - アベノミクスと家計の関係を超シンプルに考えるとこうなるPART2

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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アベノミクスが家計にどう影響するのかシンプルに考える3回シリーズPART1:インフレは政府が儲けるための仕掛け?では、アベノミクスとは物価上昇を通じて家計から政府へ実質的な所得を移転させる政策でもあること、そしてモノの値段が上がっても同じように家計の収入(給料)も増えれば今までと同じ暮らしが出来るので困らないこと(=“良いインフレ”)を説明しました。

でも、年金で生活している人は収入が増えません。現役世代の人でも給料が増えるとは限りません。もし収入が増えないのにモノの値段が上がってしまったら、すなわち“悪いインフレ”になったら、家計はどのくらいダメージを受けるのでしょうか。今回は数字を見ながら具体的にイメージを膨らませてみましょう。そうすることでインフレや消費税増税が自分の生活にどのくらい大きな意味を持つのか、きちんと把握できると思います。先に言ってしまうと、影響は意外と大きいですよ。

では実際にみていきましょう。図をご覧ください。これは総務省の家計調査(平成24年)ですが、世帯主の年齢が65歳以上、つまり標準的な年金生活世帯が1ヵ月間に使うお金(消費支出)を表しています。これを見ると1ヵ月に使うのは約21万円で、内訳はモノやサービスの税抜価格が約20万円、残りの1万円が消費税です。

では、消費税が10%に引き上げられた場合を考えてみましょう。税率が今の2倍になるわけですから、増税後に現在と同じだけのモノやサービスを買うためには2倍の消費税を納めなければなりません(図の増税後A)。つまり、今と同じ生活を続けるだけでも毎月1万円、1年間では約12万円多くのお金が必要になる訳です。これは65歳以上の平均的な世帯の場合です。子育て世帯の割合が多い40歳代~50歳代の場合は消費支出が平均30万円弱なので、毎月1万4千円、1年間では約17万円が追加で必要になります。某有名司会者ではありませんが、「奥さん、どうしますか?」ですよね。

もし増税分のお金を払うことができなければ、買うモノを減らすしかありません(増税後B)。例えば、毎月の楽しみにしている夫婦での外食を2ヶ月おきに減らす。それだけでは足りないので晩酌のビールを発泡酒や第3のビールに変える、孫に会うたびに買ってあげるプレゼントを「今回はゴメンね・・・」と言わなければならない、といった具合です。年間17万円が追加で必要になる40~50歳代の場合はどうでしょう。17万円といえば家族3~4人で簡単な旅行ができる金額です。贅沢しない外食なら10回以上に相当するでしょう。増税分を追加で負担できなければ、これらの出費を削る、即ち“実質的に生活水準を落とす”ことを強いられます。


標準的な年金生活世帯が1ヵ月間に使うお金(消費支出)


退職金などの貯蓄がある人はそれを取り崩せばよいと思うかもしれませんが、ちょっと待ってください。貯蓄の取り崩しで当座を凌ぐことは出来ます。しかし、これは将来使うはずのお金を前倒しで使ってしまう行為に他なりません。貯蓄が早く底を突くだけのことですから、根本的な解決にならないのです。つまり、増税分を貯蓄の取り崩しで賄おうとすると、長生きしたときに自分で自分を困らせることになってしまいます。

ここでは消費税が増税された場合を考えてきましたが、インフレ(物価上昇)でも基本的には同じことです。例えば、消費税率が3%上がり、更に日銀が目指しているとおり2%のインフレになれば、消費者はこれらを合わせた5%分を追加で払う必要があります。是非一度、この考え方をご自分の家計に当てはめてみて下さい。インフレや消費税増税の影響が意外に大きいことを実感できると思います。次回はこうした事態に備えるための対策を考えたいと思います。キーワードは「おカネにも働いてもらう」です。【9月9日掲載予定】



 
 1 本シリーズは2013年7月25日にTBSニュースバード「ニュースの視点」で解説した内容を一部修正して紙面化したものです。
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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

(2013年09月02日「研究員の眼」)

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