コラム
2013年08月30日

ドイツ総選挙に波乱はあるか?-危機再燃につながる波乱も、危機収束への政策の大転換もない

経済研究部 上席研究員   伊藤 さゆり

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9月22日のドイツの連邦議会選挙がいよいよ4週間後に迫ってきた。ドイツはユーロ圏最大の経済大国で、昨年秋に始動したユーロ圏の恒久的な金融安全網・欧州安定メカニズム(ESM)の最大の出資国である。ユーロ危機対策には資金面での負担ばかりでなく、一連のユーロ制度改革でも大きな影響力を発揮してきた。選挙の結果は、ユーロ危機の今後を占う材料として注目されている。

昨年来、ユーロ圏では長引く危機への不満が選挙結果に波乱をもたらす展開が続いてきた。昨年春のギリシャの総選挙では、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)が支援条件とした財政緊縮策の撤回を掲げた急進左派連合が大躍進し、ユーロ崩壊懸念が広がった。今年2月のイタリアの総選挙では既成政党を批判し、EUが求める改革に反対する五つ星運動が支持を広げ、政治空白が長期化した。

しかし、ドイツでは大きな波乱の芽は見られない。ドイツの選挙制度には小政党の乱立が政治の混乱を招き、ナチスの台頭を許した反省から「阻止条項」がある。小選挙区比例代表併用制で行われる連邦議会選挙では比例票の得票の5%以上を獲得するか、小選挙区で当選者が3名以上いる政党にしか議席を認めない。今年2月に誕生した新政党・ドイツのための別の道(AfD)は、秩序立ったユーロ離脱とマルクの再導入、EUの改革、ギリシャ支援の停止を主張し注目を集めたが、足もとでも支持率は3%で議席獲得ラインを下回っている。

メルケル首相続投の可能性も極めて高い。与党のキリスト教民主社会同盟(CDU/CSU)は、ユーロ危機に手堅く対応してきたメルケル首相の個人的な人気や経済・雇用の底堅さを追い風に、40%前後の支持率を保っている。対する最大野党の社会民主党(SPD)は、高所得者の所得税引き上げや最低賃金の導入、男女間の賃金格差是正や同一労働同一賃金のための労働法改正、住宅政策などを通じた社会的公正の実現を掲げ支持を訴えている。しかし、首相候補のシュタインブリュック元財務相の不人気もあり支持率は20%台で伸び悩んでいる。SPDと選挙協力を組む緑の党を合わせても支持率はCDU/CSUを下回る。

ただ、連立の組み合わせについては不透明だ。現在、政権に参加している自由民主党(FDP)の支持率が5%と議席獲得の最低ラインで推移しているからだ。いくつかの組み合わせのうち、最も有力視され、世論調査でも支持が高いのが、2005年11月から09年10月まで続いたCDU/CSUとSPDという2大政党による大連立の復活。メルケル首相も、その可能性を排除していない。

大連立復活の場合、ユーロ危機対策の面では危機国に今までよりも寛容な姿勢を採るとの期待がある。SPDは、公約でユーロ圏経済政府の樹立、社会政策や教育政策に関するガイドラインを設定する「社会安定協定」の締結などを掲げている。また、公約にこそ盛り込まれていないが、現政権が強力に反対してきたユーロ共同債についても「償還基金債」など過剰債務の削減の枠組みとしては検討の余地があるとの立場を採ってきたからだ。

しかし、現在の連立が継続するにせよ、大連立が復活するにせよ、あるいは別の形での連立が誕生するにせよ、危機国支援やユーロ制度改革は漸進的にならざるを得ない。現在のドイツ及びEUの法的な枠組みは、域内の財政移転を原則として禁じている。ユーロ圏内で危機支援に慎重な立場を採る国はドイツだけではなく、利害の異なる国々の間での意見調整には時間を要する。

ドイツの総選挙には、ユーロ危機の再燃につながるような波乱はなさそうだが、一気にユーロ危機を収束させるような政策の大転換も期待できない。

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経済研究部   上席研究員

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州経済

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