コラム
2013年08月19日

財政再建議論に必要な選択肢の提示

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.厳しい見通し

政府は8月8日に、中期財政計画を閣議決定した。発表されている内閣府試算によれば、現在5%の消費税率を2014年度と2015年度の二度にわたって10%にまで引き上げれば、当面目標としている2015年度に基礎的財政収支赤字の半減という目標はほぼ達成できそうだ。しかし、それでも2020年度に基礎的財政収支を黒字化する、という目標の達成にはほど遠い。2020年度の基礎的財政収支は、12.4兆円、名目GDP比2.0%の赤字の見通しだ(東日本大震災の復旧関連を除く)。金利上昇による利払い費の増加もあって、財政収支は36.8兆円、名目GDP比5.9%もの赤字が見込まれている。

2012年度の一般会計決算では税収が予算を1.3兆円上回ったなど、景気回復によって見通し以上に収支が改善する可能性を示唆するプラス材料もある。しかし一方で、試算では今後10年間の平均成長率が実質2%、名目で3%程度となるという経済再生が進むケースが前提とされているなど、試算どおりの財政収支改善の実現が危ぶまれる要因もある。
   試算結果にはかなりの誤差があることは確かだが、現在の制度を前提とする限り、財政収支を安定化させるには、現在5%の消費税率を2倍の10%にしただけでは足りないことは明らかだ。財政再建実現には、更なる負担増と政府支出の大幅な削減の組み合わせが必要だ。実に厳しい現実である。


2.避けられない負担の増加

日本経済は、ようやくデフレから脱却しようとしている。消費税率の引き上げが景気に対してマイナスの影響を与えることは否定できず、デフレからの脱却を確実にしてから消費税率を引き上げるべきだという主張が出てくることは理解できる。しかし、これはいつ消費税率を引き上げるかというタイミングの問題で、結局国民の負担がどこかで大きく増えるということには変わりがない。

心配なのは、日本経済が経済成長を取り戻せば、国民が追加的な負担をしなくても財政再建が実現できるかのような議論が散見されることだ。

国民負担率の内訳の国際比較

税や社会保障負担の重さを国際比較する際に、分母に国民所得を使うか、GDPやGNIを使うかなど議論はあるが、日本の国民負担率は主要国のなかで低い方だということは変わらない。
   政府の支出は国民全員が負担する以外に方法はないのだから、欧州各国のような社会保障制度を維持するには、少なくとも同等の国民負担が必要だ。今後日本の高齢化率が欧州各国よりもかなり高くなることが予想されていることを考えれば、欧州各国以上の負担になることを覚悟しなくてはならない。


3.選択肢を示せ

日本は、米国のような自己責任に重きを置いた体系と、欧州型のなるべく手厚いサービスの中間を目指すことになるのだろう。問題の本質は、どの程度の負担と受給の水準を選択するかである。
   大幅な財政赤字という現状からスタートしているので、負担増加の議論が先行することは理解できる。しかし、国民の前に最終的に目指すサービス水準と負担の対応が示されないのは、おかしいではないか。レストランに入ったら、注文はあらかじめ決まっていて、代金の支払い方法の選択しかできないなどということはありえない。この程度の負担ならこの程度のことができて、この程度の負担ではこれしかできない、ということが明確に示されるべきだ。
   それでも、無駄を切れば負担を増やさずに財政再建ができるという主張が必ず出てくるだろう。しかし、議論の土台があれば、そこからこの政策を止めればこれだけの負担を削減できるという具体的なメニューの賛否を問うことができるようになる。まず議論の共通の土台が示されない限り、負担増が必要か不要かという水掛け論から脱却できないだろう。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

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