2013年08月07日

BMIと“ロコモ”-体格別にみた高齢期における疾病リスク

保険研究部 研究員   村松 容子

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1.はじめに

最近、“ロコモ”という言葉をテレビや雑誌、インターネット等で頻繁に見かけるようになった。

“ロコモ”とは、ロコモティブシンドローム(ロコモティブとは「運動の」や「移動できる」という意味)の略で、「移動能力の低下をきたして、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態」 をいう。年齢を重ねても生活機能が低下しないよう筋肉や骨、関節などといった運動器の仕組みへの関心を高め、疾患の予防を促すことを目的として、2007年に日本整形外科学会が提唱した。国が策定している「健康日本21(第二次) 」にも取り入れられている。

主に加齢による運動機能不全が原因となっているため、実際に症状が現れはじめるのは50歳を過ぎた頃からである。年齢を重ねることで関節等の調子が悪くなることは、やむを得ないこととして受け止められてしまっていることも多いが、若い頃から予防することで改善すると言われている。

年齢が高くなること以外に体格によっても運動器に現れる症状は異なる。予防のためには、どのような人がどういったリスクを持っているかを知っておく必要があるだろう。そこで本稿では、現在“ロコモ”が注目をあびている背景を紹介し、さらに医療機関受診データを使って健康診断結果から得られた体格(BMI)と“ロコモ”に関連する代表的な疾病との関係を紹介する。


2.“ロコモ”予備軍は4,700万人

2010年の国民生活基本調査(厚生労働省)によれば、要介護者等が介護を必要とする状態になった理由の10.9%が「関節疾患」、10.2%が「骨折・転倒」であり、これらの運動器疾患は、「脳血管疾患(21.5%)」や「認知症(15.3%)」と並んで要介護状態をもたらす主な理由となっている。また、“ロコモ”が“メタボ ”や“認知症”の原因になることもあるとも言われている。

要介護状態になることへの懸念だけでなく、運動器疾患による医療費の高さも課題である。2010年度の国民医療費(厚生労働省)を疾病分類別にみると、変形性膝関節炎や変形性腰椎症、骨粗しょう症などを含む「筋骨格系及び結合組織の疾患」や骨折などを含む「損傷,中毒及びその他の外因の影響」による医療費が全医療費に占める割合は、65歳以上の男性ではそれぞれ5.4%、4.4%であるが、女性ではそれぞれ10.8%、8.7%と高い。

しかし、一般の生活者を対象とした調査によれば、高齢になったときに患う病気として、がん、認知症、脳血管障害などの疾病は心配されているが、運動器疾患についてはあまり心配されていないなど、運動器疾患に対する危機意識は低い 。このような状況で、現在、「ロコモ患者は予備軍を含めると4,700万人いる 」とされ、メタボ人口に匹敵すると言われている。さらに、昨今、若い人も含めて運動不足であることや、高年齢者を中心に筋肉や骨を増強するための栄養が十分でないこと、若者で痩せている人が増加していることなどから、今後ますます注目されると考えられる。


3.受診データを使った分析~年齢や体格によるリスク

どういった人が疾病リスクをもつのだろうか。ロコモと関連が深い疾病における受診状況を年齢別、体格(BMI)別に確認する。

  

1│ 使用データと分析方法

分析には、(株)日本医療データセンターのレセプトデータベースのうち、2005年1月から2011年12月までの7年間のデータを使用する。このデータベースは、主として健康保険組合のレセプトで構成されており、データに含まれる集団の人数は約32万人である。

本稿では、健康診断の結果(身長と体重、またはBMI)を得ることができるサンプルを対象に、“ロコモ”と関係が深いとされる「変形性膝関節炎10」、「変形性腰椎症11 」や「骨粗しょう症12」を理由とする医療機関の受診実績の有無を体格別にみる。さらに“メタボ”と関係が深いとされる「2型糖尿病13」を理由とする受診実績の有無と比較する。体格は健康診断の結果から得られるBMIを使用して5つの区分に分類した。

主な年齢階層におけるBMIの分布は図表1の通りである。


 

 


  

2│ 集計結果

図表2は、健康診断を受診した年と同じ年に各疾病を理由として1度でも受診したかどうかを、年齢階層別、BMI別にみたものである。

いずれの疾病も年齢が高いほど受診実績は多くなる。疾病別にBMIの違いによる影響をみると、変形性膝関節炎と変形性腰椎症はBMIが高いほど受診実績が多い傾向にあり、65歳以上でみるとBMIが24以上で変形性膝関節炎は2割程度、変形性腰椎症は1.5割程度が受診している。両疾病とも、BMIが18未満であれば65歳以上であっても、受診実績は低い水準にとどまっている。

骨粗しょう症の受診実績は、65歳未満ではBMIが低いほど多く、BMIが18以上であれば受診実績は低い水準にとどまっている。しかし、65歳以上ではBMIによらず大幅に増加し、BMIが18未満で3割近くが、BMIが28以上で2割が受診している14

一方、2型糖尿病は、BMIが28以上では30歳代から、24以上では40歳代頃から受診実績は多く、年齢が65歳以上かつBMIが24以上では2~3割が受診している。

以上4つの疾病の比較から、変形性膝関節炎や変形性腰椎症、骨粗しょう症といったロコモと関係の深い疾病は、メタボと関係が深い2型糖尿病と比べて症状が出はじめるのが50歳頃以降と遅く、BMIによる影響が出るのも遅いと考えられる。

 

 

 


4.まとめ

以上のとおり、ロコモと関係が深い変形性膝関節炎、変形性腰椎症、骨粗しょう症について、医療機関受診データをみると、年齢が高いほど受診実績が多く、いずれの疾病も65歳以上で1~2割が受診していた。BMI別にみると、変形性膝関節炎と変形性腰椎症はBMIが高いほど受診実績が多かった。骨粗しょう症は65歳未満ではBMIが低いほど、65歳以上ではBMIによらず受診実績が多い。メタボと関係が深い2型糖尿病と比べると、2型糖尿病は若いうちからBMIによって受診実績に差があるのに対して、ロコモと関係が深い疾病では高年齢にならないとBMIによる差は出てきにくいようだ。

今回体格を示す指数として使ったBMIは、身長と体重のみで決まるため、体重を増やしたり減らしたりすることでBMIを標準に近づけることは可能であるが、筋力の増加を伴わない体重の増減ではロコモに関連する疾病防止の効果は得にくいと思われる。ロコモに関連する疾病は、高齢になってから症状が出始めることが多いことから、症状に気づいてからの生活習慣の改善は難しい可能性がある。

自分がどのようなリスクを持っているかを知った上で、栄養バランスや生活習慣に気をつけて予防に努めることや、年齢が高くなってからも可能な範囲で体を動かす習慣をつけることが重要だろう。



 
  大江隆史(2010)日本ロコモティブシンドローム研究会資料「超高齢社会における運動器医療とロコモティブシンドローム」より引用。
  正式には、「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動」。
  肥満度をあらわす指数として使用される。
  メタボリックシンドロームの略。内臓脂肪型肥満を共通の要因として高血糖、脂質異常、高血圧が引き起こされる状態で、それぞれが重複した場合は命にかかわる病気を招くこともある(厚生労働省ホームページより)。
  大江隆史(2010)「超高齢社会における運動器医療とロコモティブシンドローム」講演資料等。
  日本整形外科学会サイト(http://www.joa.or.jp/jp/media/comment/locomo_more.html)より。
  2012年度財団法人かんぽ財団による研究助成によって購入した。
  1年間のうち1度も健康診断を受診していない加入者はその年の分析からは除外し、1年間に複数回健康診断を受診している場合は、年間の平均値を使用する。
 10 レセプトの疾病分類が国際疾病分類(ICD10コード)で「M179」の疾病。
 11 レセプトの疾病分類で標準傷病名が「腰椎症」「変形性腰椎症」「変形性脊椎症」。
 12 レセプトの疾病分類が国際疾病分類(ICD10コード)で「M80-82」の疾病。
 13 レセプトの疾病分類が国際疾病分類(ICD10コード)で「E11」または「E14」の疾病。
 14 BMIが28以上で受診実績が22.1%と高いが、このうち3割が変形性膝関節炎も併発している。

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村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
共済計理人・コンサルティング業務、生保市場調査

(2013年08月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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