コラム
2013年07月01日

「自転車シェアリング」という公共交通システム -自転車と歩行者と自動車の共存社会

土堤内 昭雄

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近年、欧米の主要都市で「自転車シェアリング」が注目されている。これは街中の多くの自転車ステーションに設置された共用自転車を、利用者はどこからでも自由に貸出・返却ができるシステムだ。2010年に始まったロンドン“Barclays Cycle Hire”は、ドッキングステーションと呼ばれる自転車ステーションが400か所、使用自転車が2000台だ。アメリカの首都ワシントンでも2010年に“Capital Bikeshare”が、2013年5月にはニューヨーク市マンハッタンで“Citi Bike”が開始されている

これら大都市では道路の渋滞緩和や自動車利用によるCO2排出削減などが課題で、新たな公共交通システムとして「自転車シェアリング」が注目されているのだ。アメリカの首都ワシントンでは、幹線道路の大渋滞のために若者を中心に自転車通勤が3割近くに増加しているという。しかし、他方では自転車や歩行者の安全性の確保が大きな課題となっている。

最近、日本でも都心への自転車通勤者を見かけるようになったが、全交通事故が減少している中で、「自転車対歩行者」の事故件数は2010年までの10年間に約1.5倍に増加している。自転車は交通法規上「軽車両」の扱いで車道を通行することが原則だが、交通事故死者数に占める自転車乗車中の死亡者数の割合は極めて高く、車道を自動車と共存するにはきわめて危険な状態だ。自転車先進都市であるデンマークのコペンハーゲンでは、自転車専用道のネットワーク化や自転車レーンの整備が進んでおり、通勤・通学に自転車を利用する人は約35%に上っている。

日本でも「自転車シェアリング」を普及させるには、自転車道のネットワーク化などのインフラ整備が欠かせない。特に自転車が歩行者や自動車と安全に共存するために、幹線道路の自転車専用レーン設置などの道路特性に応じた道路空間整備が必要だ。また、生活道路での速度規制・一方通行規制など自転車利用のルールづくりを進めると共に、歩行者を含めた交通マナーの向上が不可欠である。

東京は2020年の夏季オリンピック招致を目指しているが、その大会ビジョンでもある『コンパクトで環境負荷が少ない大会』の実現に向けて、競技場間を自転車専用道でネットワーク化した「自転車シェアリング」を導入してはどうだろう。都内各所に自転車ステーションを設け、諸外国から訪れる多くのオリンピック観戦者の人たちに自転車に乗って東京の魅力を肌で感じてもらうのだ。オリンピック招致を契機とした「自転車シェアリング」という新たな公共交通システムは、自転車と歩行者と自動車の共存社会のきっかけとなり、新たな「国際・環境・観光都市」東京の実現に繋がるのではないだろうか。




 
 ワシントンの“Capital Bikeshare”は自転車ステーションが200ヶ所、使用自転車が1700台、ニューヨークの“Citi Bike”は300ヶ所、6000台の規模で実施されている
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