コラム
2013年06月13日

民間失業保険の登場をどう考えるべきか!― 韓国の損害保険会社が失業保険の販売を開始―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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韓国の損害保険会社である「東部火災」は、今年の4月4日から世帯主が失職したときに生活費の一部を支給する所得保障保険(わが家族所得保障保険)の販売をスタートした。この商品は、傷害や重症疾病による障害のみならず、失業に対しても保険給付が支給される仕組みであり、民間失業保険とでもいうべき新しいタイプの商品である。
   例えば40代の男性がこの保険に加入し、月72,900ウォン(約6,367円)の保険料を納める(保険料納付期間:20年、保険料は掛け捨て)と、加入者が非自発的な利用により失職したときに、失業給付として毎日2万ウォン(約1,747円)が 最大90日まで支給される。また、失業の原因が傷害や疾病である場合は、1回当たり100万ウォン(約87,336円)の失業給付支援金が給付される。さらに、被保険者が長期間にわたり就職できない場合には長期失業給付支援金として、31日、61日、91日目ごとに30万ウォン(約26,200円)が支給される。 但し、失業の状態になっても保険料は免除されない仕組みである。

韓国では1995年から雇用保険制度が導入され、失業者に対しては失業給付が支給されているのに、なぜ民間の保険会社は失業保険を販売したのだろうか。その理由としては(1)グローバル化の進展により、個人が失業というリスクに直面する確率が以前と比べて高くなったこと、(2)就業者の雇用保険加入率が低いこと、(3)失業給付の受給期間が短いことが考えられる。
   2012年8月現在、雇用保険制度の適用対象者1,487万人のうち、72.3%(1,076万人)だけが、制度に加入しており、適用対象者の27.7%に当たる412万人は、制度に対する認識不足や保険料に対する負担を理由に雇用保険制度に加入していない状況である。さらに、短時間労働者等の適用除外者(286万人)や自営業者等(716万人)の大部分が雇用保険制度に加入していないことを考慮すると、全就業者2,486万人のうち、雇用保険制度の恩恵が受けられる者は43.3%に過ぎない。
   また、雇用保険制度に加入したとしても、すべての失業者に失業給付が支給されているわけではない。それは、韓国における「求職給付」という名前で支給されている失業給付が、原則的に非自発的失業者のみを給付の対象にしており、自発的失業者の場合は受給資格がないからである。その結果、失業保険の受給率は2012年8月現在43.0%に止まっている(図表1)。

韓国における失業率や失業給付受給率の動向

さらに、失業給付の受給期間の問題もある。韓国における失業給付の所定給付日数は、年齢と被保険者期間によって異なるが、制度の導入当時には30日~210日であったのが、1998年3月1日からは60日~210日に、さらに2000年1月1日からは90日~240日までに拡大されてきた。しかし、現在の水準でも日本(90日~360日)やフランス(50歳未満:4~24ヶ月、50歳以上:4~36ヶ月)、ドイツ (12~48ヶ月)と比べると、短い状況である。

 求職給付の所定給付日数

このように、韓国では雇用保険制度が十分なセーフティネットの提供をなしえていないので、民間の失業保険が登場してきたと考えることができる。民間失業保険は、個人にとって将来の所得保障に対する選択肢を増やすことは確かであるが、ある程度の所得が民間失業保険加入に必要であると考えると、所得階層間の格差をさらに広げてしまうという問題点がある。また、民間失業保険における失業給付の支給は、非自発的失業に限定されているが、失業のリスクがより高い人だけが保険に加入するという逆選択の問題も排除できない。今後民間失業保険が韓国社会でどのように定着していくのか注目されるところである



 
  日本円換算:日本1円=韓国11.45ウォン、 2013年6月11日為替レート適用
  払い込んだ保険料の99%までが戻るプランの場合は、月額の保険料が3~4万ウォンぐらい高くなる。
  ユギョンジュン(2013)「雇用安全網の死角地帯の現状と政策方向」『KDI FOCUS』2013年2月20日
  1年間の失業給付の受給者総数を失業者総数で割たもの。
  韓国における雇用保険の給付日数は2000年に拡大された以後、13年間変わっておらず、給付期間の更なる拡大が強く要求されている。
  労働政策研究・研修機構(2013)『データブック国際労働比較2013』
  韓国の雇用保険や失業給付の詳細は、金 明中(2013)「韓国における雇用保険制度と失業者支援政策の現状」『海外社会保障研究』Summer 2013 No.183を参照すること。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

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