2013年05月09日

再び不動産ブーム到来か-投資マネーを新たな成長の糧に

松村 徹

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株高、円安、大胆な金融緩和政策などを背景に投資マインドは好転し、実体経済の回復を先取りした投資マネーが不動産市場に雪崩れ込んでいる。金融商品であるJ-REIT(不動産投信)の時価総額は、この2013年3月に2007年5月のピークを上回って過去最高記録を更新し、期末には東証REIT指数の年間上昇率が過去最高の66%となった。「土地バブル」ともいわれた前々回の不動産ブーム(1986~1991年)では、国内企業や個人のおカネが山林原野も含めた全国の「土地」に流れ込んだ。その後、1990年3月に大蔵省が金融機関に対して行った不動産向け融資の総量規制を引き金に地価は一転して下落、2006年まで上昇することはなかった。この結果、土地は必ず値上がりする資産ではなくなり、戦後の高度経済成長が生んだ「土地神話」は崩壊した。

「ファンドバブル」ともいわれた前回の不動産ブーム(2006~2008年)では、戦後最長となった景気回復を背景に、ファンドを経由した国内外の投資マネーが、大都市のオフィスビルなどすでに収益を上げている既存物件を争って購入した。当時、ファンドという洗練された金融手法を用い、適切な借り入れ比率で、事前に詳細な物件調査を行ったうえで、更地ではなく収益不動産に投資するため、バブルは起きにくいといわれていた。しかし、市場参入者が急増したブーム後半には、高利回りを狙った過大な借り入れ、物件の収益力を極大評価した高値づかみ、「ビルころがし」「高速売買」ともいわれたグループ内での転売、リスクの高い開発案件(更地)への投資などが横行して、結局、市場は鉄火場と化してしまった。それまで、コーポラティブ・ハウスやデザイナーズ・マンションの開発、賃貸住宅の家賃保証システムの提供、中古不動産の順法化や最適用途への改修によるバリューアップ事業、などニッチな分野で活躍していた企業の多くが、短期間で大きな利ざやが見込める「流動化ビジネス」に軸足を移した。2008年9月、米国のサブプライム・ローン問題に端を発したリーマン・ショックでファンドブームは終焉し、マネーゲームに巻き込まれていた多くの新興不動産会社が行き詰った

では、現在起きつつある不動産ブームは、今後どのように展開していくのだろうか。大幅な株価上昇や円安、大胆な金融緩和政策などを材料にした投資マネーの動きは積極的で、不動産取得の目安である期待利回りも低下(価格は上昇)している。しかし、オフィス賃料や空室率、分譲マンション価格、小売店売上高、ホテルの客室単価など、不動産のファンダメンタルズはほとんど変化しておらず、今後の景気回復で改善傾向が強まるかどうかが注目される。ただし、短期的な投資マネーの動きや景気サイクルに関わりなく、日本社会の少子高齢化は着実に進行している。すでに前回ブームのさなかに総人口は減少に転じたが、団塊世代の本格的なリタイアもついに始まった。また、東日本大震災によって、企業や消費者の不動産に対するリスク意識やニーズも大きく変化している。GDPで中国に抜かれた日本の経済的地位低下を巻き返そうという動きが強まる一方、経済成長著しいアジア新興国は新たな成長市場として注目されている。

不動産ビジネスには、大規模な再開発事業のように巨額の投資マネーを必要とするビッグビジネスの面があると同時に、文字通り地に足の着いた地道な努力と現場の創意工夫が活かされるスモールビジネスの面もあり、後者がなければ前者は成り立たない。また、売れば終わり・建てれば終わりではなく、その後の維持管理や再投資が資産価値を左右する長期サイクルのビジネスでもある。さらに、少子高齢化やグローバル化など需要構造の変化に対応して持続的に成長するため、伝統的なビジネスの枠組みを超えた新たなフロンティアの開拓も求められている。このように考えれば、短期的な数字(利回り)にしか関心がなく、移り気で“不動産愛”のないマネーゲームのプレイヤーと不動産ビジネスのプレイヤーは、不動産ブームでしか出会えないというと少し言いすぎだろうか。しかし、だからこそ不動産ブームは、投資マネーを梃子に大規模な都市開発事業やリスクの高い新規事業に挑戦できる絶好の機会でもある。今起きている不動産ブームが本物ならば、潤沢なリスクマネーを不動産ビジネスの新たな成長のために有効活用したいものだ。



 
  不動産投資の際、外部から低利な資金を借り入れることで、投資家の利回りが自己資金100%で投資する場合より上昇する。これをレバレッジ(leverage:てこ)効果という。投資家の利回りは、借り入れ比率が高いほど、また不動産そのものの利回りと借入金利の差が大きいほど高くなるが、借り入れ比率を過度に高めれば、不動産からの収入減少や借入金利の上昇などで資金ショートするリスクも大きくなる。
  入居希望者が集まって組合を結成して事業主となり、用地取得から設計者や建設業者の手配まで行って建てる集合住宅をいう。
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研究・専門分野

(2013年05月09日「基礎研マンスリー」)

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【再び不動産ブーム到来か-投資マネーを新たな成長の糧に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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