コラム
2013年04月22日

「社畜」と「ノマド」の間-適度な「社間距離」の「ノマド風」働き方

土堤内 昭雄

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私は20数年前、初めて「社畜」という言葉を聞いた。「社畜」とは、『勤めている会社(営利企業)に飼い慣らされてしまい自分の意思と良心を放棄し奴隷(家畜)と化したサラリーマンの状態を揶揄したもの』(フリー百科事典:ウィキペディア)とある。随分、人を馬鹿にした言葉だと思うが、さすがに近年では、「社畜」と呼ばれるサラリーマンは少ないだろう。

日本の高度経済成長期において、私生活を犠牲にしてまで働き続けた「社畜」は、もちろんそれだけのリターンを期待することができた。当時の会社は企業福祉の中で従業員の家庭生活を丸抱えにし、従業員は「社畜」として生きることと引き換えに多くの生活保障を得てきたのだ。それは「御恩と奉公」による戦国時代の主従関係と同じように、互恵関係だったのである。

しかし、今日では企業の終身雇用制が崩れ、従業員に対する企業のシェルター機能は弱まった。そして、従業員と会社の関係は希薄になり、脱「社畜」化が進んでいる。このような変化の中で、遊牧民を意味する「ノマド」という、特定の企業に属さず、「雇われない働き方」の人たちが増えている。彼らはIT機器を駆使し、様々な場所で自由に仕事をする新しいワークスタイルの人たちだ。

一方、「ノマド」にも大きなリスクがある。企業で働く正規職員の場合、年金や社会保険料等の半分を、通信費や交通費、オフィスのIT環境など仕事に伴う間接経費を会社が負担している。「ノマド」になるということは、このような企業に属するメリットをすべて手放すことになるのだ。「ノマド」として生きていくためには、自前の安定したIT環境や専門家としての高いスキルと能力を維持することが不可欠であり、誰でもノマドワーカーになれるわけではないのである。

そこで「社畜」と「ノマド」の間で、会社に居ながら「ノマド」に働くことを考えてはどうだろうか。例えば『仕事の時間や場所の自由度を高める、仕事以外の人的ネットワークをつくる、自分の能力開発のために自己投資する、会社の企業福祉を期待しない、収入を最優先に考えない、社会の利益を意識する』など、個々の状況に応じて、自らと会社の適度な「社間距離」を保つ自律的働き方である。

企業が成熟社会で高い付加価値を創造するためには、人材の多様性(ダイバーシティ)が不可欠だが、会社との適度な「社間距離」をとる「ノマド」働き方は、主体的に考え、自律的に働く人材を生み出す。この「ノマド」働き方は、たとえ「解雇規制緩和」が導入されても、その「社間距離」ゆえに衝突事故の可能性は低く、企業・従業員双方のWin-Winの関係をもたらすものと考えられるのである。


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土堤内 昭雄

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