コラム
2013年04月17日

マンションの防災力を強化する本当のメリット-自治体によるマンション認定制度に期待

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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防災力を強化したマンションを認定する制度を導入する自治体が増え始めている。2009年度に大阪市が創設した「防災力強化マンション認定制度」を初めとして、2012年度には大阪府が市と同様の認定制度を導入し、2013年度からは、仙台市が「杜の都防災力向上マンション認定制度」を、東京都墨田区が「すみだ良質な集合住宅認定制度」をスタートさせた。

いずれも、防災性能に関する一定の基準に適合するマンションを自治体が認定する制度となっている。例えば大阪市の認定基準では、建物構造の安全性、家具転倒防止対策など建物内部の安全性、避難路や空地の確保など避難時の安全性、水・食糧備蓄などの災害後3日間の生活維持を図る備え、エレベーターや水道が使用できなくなった場合に高層階住民が避難生活を送るための対策、さらには、日常の自主防災活動の実施も示されており、他の自治体もほぼ同様の基準を設けている。マンションの防災対策と聞くと免震構造などを思い浮かべるが、それだけではなく、住民による防災活動も含めた総合的な防災力を強化したマンションの供給を誘導しようとしているのである。

大阪市では、市内で年間に供給される分譲マンション戸数の10分の1にあたる500~700戸の認定を当面の目標としてきたが、東日本大震災後の2011年度以降は目標を上回る件数を認定しており、高い誘導効果と言えるだろう。(図表参照)

認定したマンションは自治体のウェブサイトで公表される。マンション開発事業者にとっては認定を広告宣伝に活用でき、販売促進につながるメリットがある。しかし筆者は、事業者のメリット以上に、ユーザーにとってのメリットが大きいと考えている。

認定基準を満たすために必要な費用は、最終的に販売価格に転嫁されるので、住まいや地域の防災に関心が高く、安全・安心にある程度お金を掛けてよいとするユーザーが購入する可能性が高い。自治体による認定は、このようなユーザーに対して、実際にお金を掛けてよいかどうかを判断するための情報を与えてくれるのである。そして、売主と買主という関係からすると第三者であり、地域防災に責任を持つ行政の認定情報は、ユーザーからすると極めて信頼性が高いと言えよう。

防災力を強化したマンションを供給誘導することは、同時に、住まいや地域の防災に関心の高い住民を誘導することになる。これは自治体にとって大きなメリットと言えよう。また、防災意識の高い住民が増えることは、マンションが立地する地域コミュニティにとっても心強いことではないだろうか。

このようにみると、認定制度の導入はユーザー、事業者、自治体、地域コミュニティそれぞれにメリットがあり、今後、導入する自治体が増えていくことが十分に期待できる。認定制度が定着し、防災力を強化したマンションがスタンダードになっていくことによって、住民や地域の防災力がより一層高まっていくことを期待したい。



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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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