コラム
2013年04月17日

住みたくないスマートハウス、住みたいスマートハウス

  松村 徹

文字サイズ

室内に設置されたロボット掃除機は、入居者が問いかければ天気や鉄道の運行状況、沿線のニュースなどを音声で提供してくれるうえ、生活習慣などをデータとして蓄積・分析し、入居者に適した情報提供もできるようになる。そんな実験が都内の大型賃貸住宅プロジェクトで始まった。また、住民が装着するリストバンドや体重計で計測したデータを蓄積し、スマートフォンで健康状態を確認できるサービスの実験もある。利用者の声で設定温度が変るエアコンや野菜から出るCO2をセンサーが読み取って最適な温度になる冷蔵庫、外から自宅の家電や風呂などに指示を出せるシステムも開発されている。真面目に開発している方々には申し訳ないが、そういった家にはあまり住みたくないし、センサーだらけの家電より、斬新なデザインやメカニズムの海外勢や独立系の家電の方がよほど魅力的だと思う。無数のセンサーに生活をモニタリング(監視)されたうえ、節電上手で健康的な生活をアドバイス(指導)される住宅は、私たちが本当に望む「スマートハウス」なのだろうか。そういえば、以前、使用時に健康チェックをしてくれるお節介な便器に驚いたが、その後普及したとは聞かない。

もちろん、住宅のエネルギー消費を抑制・最適化するためのさまざまな努力やプランを否定するつもりはまったくない。特に、エネルギー使用状況の「見える化(可視化)」、太陽光発電など創エネ・蓄エネ設備の設置と制御、照明のLED化と自動調光、家電の省エネ性能引き上げは必要性が高いと思う。しかし、センサーや電子制御システムは停電すれば動かないし、ネットワークしていればハッキングによる機能停止や誤作動がおきるリスクもある。データをSNS(ソーシャル・ネットワーク・システム)で共有する実験も行われるようだが、個人情報の流出リスクと隣り合わせなのを忘れてはならない。財布代わりになるスマートフォンは確かに便利だが、紛失した場合のリスクが大きいのと同じことだ。また、プロが管理するオフィスビルなどの業務・産業施設と異なり、居住者自身が日々HEMS(家庭内エネルギー管理システム)を使いこなすことを強いられ、SNSで他の世帯と省エネを競い合うような生活が本当にスマート(賢いこと)なのか。自宅でもオフィスのような情報管理が求められる一方、住まいに必要な安らぎや自由な時間が損なわれるのであれば本末転倒ではないだろうか。

「スマートハウス」というと、電子制御でひたすらエネルギー消費を抑制したり、高価な発電設備や蓄電池を装備したりするハイテク面が強調されやすいが、不動産にはパッシブ設計(デザイン)という伝統的なアプローチがある。これは、エアコンや除湿機などの特別な機械装置を使わずに、建物の構造や材料などの工夫によって熱や空気の流れや外光を制御して、快適な室内環境をつくりだす設計思想や設計技術のことだ。たとえば、床、壁、天井、屋根、窓の断熱性や気密性を高めて外気温の影響を受けにくくすることで、夏や冬のエアコン使用を減らす。あるいは、南側の窓に庇を付けて日射を遮る。天窓や欄間、換気機能付き玄関ドアなどで通風を良くして、夏のエアコン使用を減らし湿度も下げるといった、先人の知恵の応用だ。中古住宅のリフォームで窓を複層ガラスに入れ替え、室内のカーテンを遮熱性の高い商品に交換し、夏場に植物のグリーンカーテンを育てることもパッシブ設計のアプローチといえる。「スマートハウス」はパッシブ設計を基本として、ハイテク機器やICT(情報通信技術)で補完する仕組みの方が、建築費は高くなるが日常的なエネルギー消費が少なく、維持管理が容易で陳腐化リスクも小さいため、LCC(ライフサイクル・コスト)で評価すると十分に経済的だろう。

いずれにしても、住宅をひたすら家電化するだけでは、“誰もが住みたくなる「スマートハウス」”にはならないと思う。不動産ビジネスは、安全性や快適性、経済性などの基本性能を備えた住まいと、生活に関わるさまざまなサービスを提供できるビジネスだけに、専門家として“誰もが住みたくなる「スマートハウス」”をもっと積極的に提案してはどうだろうか。できれば、節水機能の向上や資源リサイクル、緑化の充実もぜひメニューに入れて欲しい。すでに中古マンションでは、「通風・採光・断熱という住宅の基本性能を抜本的に改善するリノベーション」を積極的に売り込む不動産会社がある。電気料金上昇や温暖化ガス削減の要請もあり、普及が急速に進むと予想される「スマートハウス」だが、われわれ利用者自身が、省エネ・省資源型の生活を実践する意思があるかどうかが最後の課題かもしれない。人には、いいかげんに生きる自由や不健康に暮らす自由もあるからだ。


 
  さまざまな定義や基準があるが、ここでは省エネ・創エネ・蓄エネ技術や情報通信技術を駆使して、エネルギー消費を抑制・最適化できる住宅(マンション、一戸建て)とする。ただし、住まいとしての基本性能である安全性や快適性、経済性などが損なわれないことが前提だと考える。
  マンションで効率的なエネルギー利用を図るため、プロの管理会社がMEMS(マンション内エネルギー管理システム)を使いこなすのであれば、住民にとってシステム導入のハードルは低いし、むしろそうすべきだろう。
  藤沢侑『やっぱり「ダメマンション」を買ってはいけない』ダイヤモンド社、2013年3月22日出版、P.124の表現を参考にした。
  エネルギー関連の最先端技術は発展途上のため、将来の陳腐化リスクが大きく、コストダウンのスピードも早いと思われる。また、住宅設置が進められる電気自動車(EV)の充電設備の規格が統一されていない点も問題だ。このため、最初から住宅に装備するプラン以外に、将来の選択や交換ができる余地を残したプランも用意して欲しい。

このレポートの関連カテゴリ

松村 徹

研究・専門分野

レポート

アクセスランキング

【住みたくないスマートハウス、住みたいスマートハウス】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

住みたくないスマートハウス、住みたいスマートハウスのレポート Topへ