コラム
2013年03月22日

東京から地方へ 観光需要や消費のお裾分けを

  松村 徹

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新潟県関川村などの伝統民芸品「猫ちぐら(猫つぐら)」は全国の愛猫家を惹きつけてやまない。これは、江戸時代から続くといわれる稲藁で編んで作った猫用の籠で、ずいぶん以前から注文が殺到して生産がまったく追いつかなくなっている。インターネットで確認すると、今注文しても届くのは1年半~3年半後と、東京の予約の取れないイタリア料理店よりすごい状態だ。1年待ちだった時にあきらめずに注文しておけばよかった、といまや後悔することしきりである。これは、超ローカルだった伝統民芸品が、全国区になった好例といえるだろう。しかし、地元の人自身がその魅力や価値に気付いていない、あるいはそれをうまく伝えられないため広く知られていない、今は原石だが磨き上げれば海外にも十分にアピールできる、そんな「クール(Cool;かっこいい)」な物産や生活文化がまだまだありそうだ。

たとえば、たまたま会津の古い土産物店の奥で見つけた、伝統漆器の「鉄錆塗(てつさびぬり)」を応用した立雛(たちびな)は、雛人形とは思えない渋く落ち着いた色合いがクールだ。限定品のため値段はかなり張るが、東京のギャラリーなどで展示していれば1日何組でも売れてしまいそうに思える。この商品はインターネットでも販売されているが、何の予備知識もない人間が、ネット検索で「鉄錆塗の立雛」にたどり着くのは至難の業だろう。また、打ち粉を使って麺棒で伸ばさず、ひたすら打ち抜いて(たたいて)作る文字通りの手打ち蕎麦「扶(ぶ)ちそば」の店が会津にある。当たり前だが、実際に行って、江戸っ子のご主人の薀蓄(うんちく)を聞きながら食べてみないとその旨さはわからない。ただ、あるハウスメーカーが福島県で販売する別荘地のサイトに、この店とご主人がやたら詳しく紹介されていて、現地販売担当者?の肩入れ具合が伝わってきて面白い。

ヒト・モノ・カネが集中する東京は、日本一のビジネスセンターであると同時に日本最大の観光地といえ、日本全国はもちろん、広く世界からビジネス客や移住者、観光客を引き付ける巨大な磁場を持っている。また、不動産市場としてみれば、その規模は世界有数で、オフィスビルや商業施設、ホテル、住宅、物流それぞれの最先端施設が揃う一大ショーケースでもある。特に、都市型産業ともいえる不動産開発ビジネスは、地方からヒト・モノ・カネを吸い出す東京一極集中現象によって大いに潤っている。だからこそ、深刻な人口減少や高齢化、経済活動の低迷に悩む地方の活性化に、もう少し手を貸してもいいのではないか。すでに、不動産会社のCSR(企業の社会的責任)活動として、森林整備への資金協力や木材の利用、都市と農山村との交流イベント、地方食材の販売などが行われているが、残念ながら一部地域とのイベント活動の域を出ていないように思える。不動産会社が運営する施設や、レジャー・商業施設開発、街づくりのノウハウを活かして、地方の魅力をより広く伝え、地方から一方通行で流れ込むヒトやおカネの一部を地方に還流する新しい仕組みを作れないものだろうか。

たとえば、在京不動産会社が地方のコンシェルジュ(総合世話係)となって、都心のオフィスビルや商業施設の一角を提供して、東京に集まる人たちに”地方に埋もれたクール”を発見、紹介・PRする、いわば東京の観光需要や消費(購買欲)を地方にお裾分けするプロジェクトだ。すでに、東京都心には道府県のアンテナショップが多数あるが、どこも既視感のある土産物の展示販売が中心で、その土地への関心や好奇心を刺激する仕掛けが弱いように思う。よそ者の目線でその地域や土地の良さや魅力を発見し、価値を具現化するのが不動産開発ビジネスとすれば、観光資源開発との親和性は高いはずだ。経営資源に恵まれた大企業なら、注目を集めた商品の生産体制や流通ルートの整備、異業種とのコラボレーションによる新商品の開発なども支援できそうだ。地方に埋もれたクールな観光資源や原石の発見は、日頃、商業店舗誘致のため全国の飲食店を食べ歩く社員や、別荘地やホテル・リゾート施設の開発、メガソーラーの設置などで地方を飛び回っている社員からの情報提供を受ければいいと思うが、どうだろうか。


 
  古くから農家で猫が大切に飼われていたことがわかる。犬の室内飼い増加に対応し、最近は「犬ちぐら」も販売されている。

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(2013年03月22日「研究員の眼」)

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