2013年03月06日

人口減少下における経営戦略と企業業績 -ニッセイ景況アンケート 2013年1月調査より-

生活研究部 主任研究員 井上 智紀

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日本生命保険(相)とニッセイ・リース(株)は、36回目となる「ニッセイ景況アンケート調査(2012年度下期調査(2013年1月実施、回答数4,672社))」を実施し、ニッセイ基礎研究所が集計・分析を行った。今回のアンケートでは、特別調査として「人口減少下での経営戦略と企業収益への影響」を取り上げ、企業の中長期的な経営戦略の方向性と実現に向けた課題について、各企業がどのように考えているのかについて調査した。

企業にとって経営戦略は、事業の内容を規定し、向かうべき方向性を指し示す指針として、重要な役割を担っている。経営戦略に関する研究はチャンドラー、アンゾフらに代表される、主として企業の多角化に主眼をおくものと、事業活動を通じた価値創造の枠組み(バリューチェーン)の再構築に主眼をおいたものなどがある。今回の特別調査では、これらを包括的に捉えるとともに、人口減少に伴う市場の縮小という環境への適応の方向を探ることを目的として、企業の経営戦略を「地理的水平展開」「事業領域の水平展開」「垂直統合型」の3つに大別して捉えた。

調査の結果、日本企業の多くは、「地理的水平展開」や「垂直統合型」の戦略を通じた、市場規模の維持・拡大や利益率の向上につながる商品・サービスの高付加価値化を目指していることが明らかとなった。

また、商品・サービス戦略上の課題では、戦略に関わらず「コスト削減による利益確保」が最も多いものの、事業領域の水平展開、垂直統合型では「既存の独自技術・ノウハウの転用」が、地理的水平展開では「既存の商品・サービスの改善」が、次に多くなっていることから、戦略の方向性により価値創造の源泉を求める商品・サービス戦略のあり方も異なっている様がみてとれた。

一方で、直面している課題では、戦略に関わらず「人材不足」が最も多くあげられていたことは、戦略の方向性の違いはあれ、いずれの企業も戦略遂行に適した人材の育成や確保が大きな課題となっていることを示している。

企業の経営戦略と足元の業績との関係では、12年度見込み、13年度見通しとも、地理的水平展開、垂直統合型で、増収・増益の企業が、事業領域の水平展開では減収・減益の企業が、それぞれ他の戦略に比べ多くなっていたことは、戦略によって実現に向けた難易度やリスクの高さが異なり、事業領域を水平展開していくことの難易度の高さを示している。

戦略実行の速度や成果が現れる時期は、個々の企業を取り巻く環境や企業の内部資源の状況によって異なるが、これらの戦略をとる日本企業の今後の状況は、引き続き注視していく必要があろう。

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生活研究部   主任研究員

井上 智紀 (いのうえ ともき)

研究・専門分野
消費者行動、金融マーケティング、ダイレクトマーケティング、少子高齢社会、社会保障

経歴
  • プロフィール
    ・1995年:財団法人生命保険文化センター 入社
    ・2003年:筑波大学大学院ビジネス科学研究科経営システム科学専攻修了(経営学)
    ・2004年:株式会社ニッセイ基礎研究所社会研究部門 入社
    ・2006年:同 生活研究部門
    ・2018年より現職
    ・山梨大学生命環境学部(2012年~)非常勤講師
    ・高千穂大学商学部(2018年度~)非常勤講師
    ・相模女子大学(2022年度~)非常勤講師

    所属学会等
    ・日本マーケティング・サイエンス学会
    ・日本消費者行動研究学会
    ・日本ダイレクトマーケティング学会
    ・日本マーケティング学会
    ・日本保険学会
    ・生命保険経営学会

    ・一般社団法人全国労働金庫協会「これからの労働金庫のあり方を考える研究会」委員(2011年)

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