コラム
2013年03月04日

自立と保護、自由と規制

保険研究部 常務取締役 部長   中村 昭

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最新型のスマートフォンを購入した際に、その取扱説明書のあまりの厚さにあぜんといたしました。いくら高性能電子機器であるとはいっても、なんと500ページ弱の分量もあるのです。私は申年うまれなので、『サルでもわかるスマホ教室』にでも通わないと、電話すらかけられないのではないかと危惧したほどでした。(実は、未だに触れてもいない機能がたくさんありますが…)

しかし、本当に驚きましたことは、「○○をしないでください」という取扱注意事項が、冒頭部分に40ページ以上に渡って記載されていたことです。電話機はそれほど危険なものであるはずがなく、そこには、私の想定外の行動に対する注意喚起の記述が並んでいました。
   「電子レンジなどに入れないで下さい。火災、やけど、怪我、感電の原因となります。」「ぐらついた台の上や傾いた場所などに置かないで下さい。落下してけがの原因となります。」「自動車などの運転者に向けてライトを点灯しないで下さい。運転の妨げとなり、事故の原因となります。」…
   消費者の保護のため、そして、製造物責任法に定められた製造物責任(指示・警告上の欠陥による損害の責任)の発生を防ぐためもあり、真剣に注意表記がなされているのでしょう。

いつから、これほど保護が満ち溢れる社会になってしまったのでしょうか。公共交通機関においても、「列車が来ると危険ですから、白線の内側まで下がりましょう」「急に揺れることもあるので、つり革につかまりましょう」と、日々保護を行ってくれています。確かに、自己責任による自立の道は険しく、保護に身を委ねることは安逸なのでしょう。しかし、保護を拡げるということは、規制を拡げるということでもあるはずです。

『自由は失いたくない。でも、危険はいやだから、規制で守って欲しい。』という願望は成立しえません。なぜならば、規制と自由は対立概念であり、規制が進めば進むほど自由は侵食されていくからです。自由と規制の適正なバランスというテーマは、大きな政府か小さな政府かという問題にもつながる、しっかりと議論すべき重要な問題です。

しかしながら、現実には議論が置き去りにされたままで、直面する状況から発生する必要性に即して、規制が一方的に拡大しています。何か問題が生じる度に、「現状を放置することは問題だ」「ルールを定めるべきだ」という国民の要請に応えて、懸命な立法努力の末に日々規制が積み重ねられていきます。

この積み重ねの結果として、日本の法律はどんどん数が増加しています。総務省行政管理局が2001年4月よりウェブサイト上で公開しています法令データ提供システムにより、日本で施行されている法令の数について調べることができます。


日本で施行されている法令数


2001年10月1日に施行されていた法令は6,879法令でしたが、2013年1月1日現在では7,825法令となっています。この11年余りの間に、1000本弱の増加です。当然、すべての法令が国民の保護のために作られたのでしょうが、それだけ国民に対する規制が拡がったともいえるでしょう。
   本来、国民には法令順守義務が求められるのでしょうが、実際にはこの増え続ける法令をすべて了知することは不可能であり、知らないことを遵守できるわけはないのです。
   厚くなる取扱注意事項と、増え続ける日本の法令には、同根の問題がある気がいたします。規制に頼るのみではなく、自己責任や自立・自由の観点からの判断についても重視していくべきであると考えます。

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