コラム
2013年02月26日

“レスリング除外危機”が示唆する“TPP問題”への教訓

経済研究部 シニアエコノミスト   上野 剛志

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今月、日本のスポーツ界に衝撃が走った。12日に開催された国際オリンピック委員会(以下、IOC)の理事会において、2020年夏季五輪からの除外候補にレスリングが選ばれたためだ。最終決定されたわけではないが、除外の危機に直面していることは間違いない。このニュースは、「古代オリンピックからの採用競技であり、世界競技人口も多い(一説には100万人超)レスリングが何故?」という意外感とともに、「日本のお家芸が除外されることのマイナス影響」への危機感が広がった。

報道ベースでは、今回の除外危機の背景には「レスリングには長い歴史と広い裾野がある」という油断があったことに加えて、「IOC理事の不在」という状況も影響した可能性が指摘されている。最後の最後までレスリングと除外候補入りを争った“近代五種”(1人の選手が射撃、水泳、フェンシング、馬術、ランニングで競うもの)は競技団体の代表がIOC理事を兼ねていたとのこと。同競技に有利な展開になるような働きかけがあったのかは不明だが、少なくとも近代五種は“ルール・メーカー”として食い込んでいたということになる。
   また、日本のスポーツ界に関しては、「日本が強くなりすぎた競技では、日本にとって不利になるようなルール変更が行われる」という通説が往々にして指摘される。良く挙げられる例としては、かつて日本勢が活躍したスキージャンプ、ノルディック複合、背泳ぎがある。真偽のほどは定かでないが、結局これらの競技において、日本は不利なルール変更を受け入れざるを得なかった。
   レスリングをはじめとする上記の事例が示唆する教訓としては、当たり前だが“ルール・メーカー”であることはルールに関して強い影響力を及ぼすことができ、そうでない場合は、間接的に影響を与えることは不可能ではないものの、他者の決定に従わざるを得ないということだ。

話を経済領域に移すと、現在の世界経済では、オリンピック同様、各国が貿易でしのぎを削っている。世界経済は最悪期を脱したとはいえ、まだまだかつての勢いはない。自国経済の回復のため、輸出を拡大したいのは多くの国の共通の願いだ。先日行われたG20において、直接の名指し批判こそ回避できたとはいえ、そもそも急ピッチで進む円安が大きく注目されたのは、各国の貿易への関心の高さを表している。
   そうした状況下、世界では現在“自由貿易圏の形成”がブームとなっており、米国と環太平洋諸国を対象とするTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の協議が進んでいるほか、今月には米欧がFTA交渉を始めることが事実上決定した。巨大な自由貿易圏を作ることは、域内貿易の活性化という直接的な効果に加えて、投資や知的財産権なども含めた広い意味での世界の貿易ルール作りにおいて、主導権を握るという意味合いがある。
   わが国も既にいくつかの国や地域と自由貿易協定を締結してはいるものの、自国より大きい経済体(米国やEU、中国)との間に協定は無い。したがって、日本の巨大自由貿易圏入りにとってカギとなるのは、やはり現在検討が進められているTPPに参加するか否かの選択だろう。

TPPについては、今月22日の日米首脳会談において、日本が求める関税撤廃の例外品目が認められる可能性が確認されたことから、安倍政権は今後交渉参加へ足を踏み出すことになるとみられる。国内調整等にまだまだハードルは多いうえ、必ずしも唯一の道というわけではないものの、TPPに早期に交渉参加し、ルール作りに携わり、TPP自体を大きく育てていくことは、日本が世界の貿易ルール作りにアクセスする有効な手段となるはずだ。

従来、わが国はどちらかと言えば“世界標準ルール”を受け入れる姿勢が強く、自らルール作りを主導する姿勢はあまり見られなかったように思う。これからは自らが“ルール・メーカー”となり、国益を守っていくという気概とそれを実現に繋げる仕組みが必要だ。

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経済研究部   シニアエコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融、日本経済

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