コラム
2013年02月22日

アベノミクスとオバマノミクス~政策は類似も、時間差が金融市場に影響

土肥原 晋

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●国際的に注目を集めたアベノミクス
   先頃のG20で注目されるなど、アベノミクスが海外でも関心を集めている。近年、ジャパン・パッシングが恒常化している中、日本の経済政策が注目を集めるのは久しい。政府はその内容を、(1)機動的な財政政策、(2)大胆な金融政策、(3)民間投資を喚起する成長戦略と説明、三本の矢と名づけている。アベノミクスへの関心は金融市場(特に為替)を動かしたことによるが、市場を動かした理由は、三本の矢の中でも“大胆な金融政策”への期待によるところが大きい。既に、安倍政権の要請により、日銀は2%のインフレ目標を設定、新総裁誕生後は、早期の目標達成に向けて追加緩和策の実行が期待されている。

●オバマノミクスとは共通点も
   元来、××ミクスとはその政権の経済政策を指す用語として用いられるが、代表的なのはレーガノミクスだろう。サプライサイドを強化するため、大胆な減税策(含む加速度償却)と規制緩和を中核に据えた。その実効性と共に様々な議論を巻き起こしたが、その後の共和党政権の政策に受け継がれるなど現在でも影響が窺える。
   レーガノミクスとの比較ではオバマノミクスは影が薄いが、政権誕生時には、金融危機から脱するための大型景気・金融対策と金融危機再発防止のための規制、公約である医療制度改革等が目玉とされ、いずれも就任2年以内に法案を成立させるなど成果を残した。しかし、雇用回復の遅れとやや強引な改革実施が反発を招き、2010年の中間選挙、2012年の大統領選挙では、ともに議会下院選で共和党に敗北するなど政権の支持拡大には結びつかなかった。それどころか、先の大統領選挙では一時ロムニー候補に支持率で逆転されるなど、オバマノミクスの二大改革である金融規制・医療制度改革が改廃される可能性も出ていた。
   オバマ大統領は再選後の就任演説で「やり残した課題をやり遂げる」と表明、今後は、上記の二大改革の実施と、中間層の底上げに向けた様々な政策により、最終的な目標である「平等な社会の実現」を目指す。そのためには目前の財政赤字削減問題を解決し、景気や雇用回復の加速が必要となるが、それを達成できなければ2年後の中間選挙での勝利は見えず、やり残した課題の達成も危ぶまれよう。オバマ大統領にとって、景気・雇用の回復は、依然として政権運営の基本的な課題と言える。
   では、アベノミクスとオバマノミクスの共通点は何か? オバマノミクスをアベノミクス同様に三本柱で括るとすれば、(1)雇用回復のための景気・産業政策(エネルギー改革・輸出倍増計画・移民制度改革等を含む)、(2)非伝統的な手段による“大胆な金融政策”、(3)バランスの取れた財政政策(富裕層等の増税の一方、国防・社会保障支出を含めた削減の実施)となろう。財政赤字削減が主要課題となる中、財政出動の余地は少ないが、その他の政策ではアベノミクスと大きく異なるわけではない。

●注目の日米会談の成果は?
   今週末には日米首脳会談が行われる。オバマノミクスの目指す景気加速には、日本経済の活性化は好ましい。さらに、財政赤字削減策で国防費が削減されるため、日本の防衛負担増も欠かせない。また、中国が平和的に経済発展を遂げることも必要な条件となろう。ただ、米国はデフレ状況にあるわけではなく、賃金上昇率は過去から半減したものの1~2%程度を保っており、景気回復後は早晩インフレが警戒される。財務長官に指名されたルー氏が先頃の公聴会で強いドルの維持を表明したのは単に伝統を踏襲しただけではなく、一定程度の円レートの戻りは容認されるだろう。こうした点を考慮すると、デフレからの脱却と強い日本を目指す安倍政権の政策とは方向性を一にする。課題は日本が慎重姿勢を見せるTPPへの参加であり、会談の成否も日本サイドの姿勢に左右されよう。
   現在の米国経済は、辛うじて「財政の崖」を回避、財政問題は今も燻るが、漸く本来の回復への道筋が見えつつある。景気の先行きへの期待を高めているのは、これまで景気の足かせとされてきた住宅と雇用市場の回復による所が大きい。ただし、住宅価格は最近の急速な回復にも関わらず、ピークから35%下落後、30%程度へと戻したに過ぎず、住宅着工もピーク水準の4割に満たない。雇用でも、リセッション以降失われた雇用者数の6割程度が回復したに過ぎない。本格回復への道は長いが、半面、回復余地も大きいと言える。

●失業率目標はバーナンキ議長の置き土産?
   FRBは、こうした景気回復への足取りを確かなものとするため、12月FOMCで、毎月850億ドルの長期債購入と失業率目標の導入を決定した。バーナンキ議長は日銀の政策をよく研究しており、“教訓”として活用してきた。その第一は、ゼロ金利下でも、中央銀行の緩和策は幾らでもあるとの姿勢を貫いたことだ。必ずしも効果的だったわけではないが、間断なく様々な政策が繰り出された。
   第二の教訓は、景気が回復に向かっても回復軌道に乗るまで緩和の手綱を締めないことだ。FRBは失業率が6.5%を割り込むまでゼロ金利策を維持することを決定したが、失業率自体、元来は遅行指数であり、特に米国の失業統計では、景気回復時にはそれまで撤退していた人が雇用市場に参入し、失業率の低下速度が鈍化する傾向がある。そのため、失業率目標の導入は、「景気回復の進行後もしばらくの間は緩和姿勢を維持する」ことを意味する。今回の決定は、来年初に任期終了(2014/1)を迎えるバ―ナンキ議長が、景気回復後の緩和策維持を置き土産としたとの意図も窺える。
   第三は市場との対話を重視したことだ。上記のように、政策面では政策効果を考慮しつつ効果が薄れてきたタイミングで次の政策を繰り出すと共に、FOMC後の記者会見や経済見通しの発表等、市場にわかり易くするための改革を行った。FRBは株式市場の動向も重視している。401Kの普及を通じて直接・間接的に個人に広く保有されているため、株価の変動は資産効果や消費者マインドへの影響が大きい。こうした姿勢はオバマ政権も同様であり、今回、キャピタルゲイン課税と配当税率の引き上げ(20%)は富裕層のみに限定した。半面、日本では引き上げを容認、米国の富裕層と同率となる。

●今後は緩和策の時差が市場に一層影響か
   以上のように“大胆な金融政策”では共通するものの、米国経済はデフレを回避、本格回復の一歩手前にこぎつけている。FRBは非伝統的政策を実施してデフレ回避に努めてきたが、最近のFOMCでは量的緩和策の収束を議論するなど、出口戦略の検討に入りつつある。これから中央銀行総裁を選出して“大胆な金融政策”に乗り出し、デフレ脱出を目指すアベノミクスとは時間差が大きい。
   金融市場では既にこうした時間差の影響が表れているが、今後、アベノミクスの“大胆な金融政策”が現実化し、半面、米国が出口戦略を急ぐこととなればその差はさらに明確化しよう。既に、米国の株価は企業収益の改善を背景に、リーマンショック(2008年9月)前のみならずリセッション(2007年12月)前の水準を回復、過去最高値をも視野に捉えている。債券市場でも10年国債金利が2%程度に上昇、日本の長期金利を大きく上回る。そうであれば、円高の反転も自明のことと思われる。円高が急速に進行した米国のリセッション以前の円ドルレートは110-120円程度、日経平均は15000-18000円程度と現時点との乖離は大きい。今後の金融市場では、アベノミクスの効果を検証しながら、戻りの水準が試されることとなりそうだ。

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