コラム
2013年02月21日

ローソンに続け!中堅・中小企業も年収アップの検討を

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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コンビニ大手のローソンは若手と中堅社員の年収を3%引き上げると発表した(平均15万円、子育て世帯には更に上乗せあり)。作業服店チェーンのワークマンも一律3%アップを決めた(平均15万円)。両社とも賞与への上乗せのため恒久的な措置とは限らないが、話題になっている。

こうした動きの背景にはデフレ脱却を目指す政府の要請がある。安倍首相は、経済財政諮問会議や、経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体トップとの会談などの場で賃金の引き上げを繰り返し要請しており、これにローソンやワークマンが真っ先に応えた格好だ。とかくこの手の話は大企業が先行して実施するよう期待されがちだが、財務省の法人企業統計からは、大企業と中堅・中小企業の状況にあまり違いがない様子も浮かび上がってくる。

資本金10億円以上(大企業)と同1億円以上-10億円未満(中堅・中小企業)に分けてみると、一人あたり人件費(役員・従業員の給与・賞与)が90年代前半から減少傾向にある点は大企業も中堅・中小企業も同じだ(図表1)。一方、この間に1社あたりの利益剰余金(内部留保)と配当金(株主還元)が増えた点も、大企業と中堅・中小企業で重なる(図表2、図表3)。つまり、企業で働く人の収入が減る一方で、企業の内部に溜まっているお金や株主が受け取ったお金は増えたのが、大企業と中堅・中小企業に共通した平均的な姿だといえよう。

ところで、安倍首相の要請に対し経団連の米倉会長は「業績が良くなれば一時金や賞与に反映する」と応じたそうだ。では業績はどうか。1社あたりの当期純利益は、リーマンショックで一時的に急落したものの、その後V字回復している。この点も大企業と中堅・中小企業で大きな違いは見られない(図表4)。だとすれば、今後の業績維持・改善が前提となるが、大企業だけでなく中堅・中小企業も年収アップが可能かもしれない。ちなみに、上場企業に限っても当期純利益が10億円以上の中堅・中小企業は36社、1億円以上だと実に500社を超える(図表5)。

年収アップの効果を見積もっておこう。図表6は役員・従業員の人数を示したものだが、中堅・中小企業で働く人は587万人で、大企業の762万人と大差ない。つまり、中堅・中小企業の年収アップは大企業に引けを取らないほど日本経済に及ぼす影響が大きい。

ここで述べたことはあくまで企業の平均的な姿に過ぎない。個々企業によって過去の利益の蓄積や足元の業績、今後の業績見通し、設備投資の予定など千差万別であることは言うまでもない。一方で、一般に大企業は意思決定に時間がかかる。ならば、先に中堅・中小企業が賢明な年収アップを実施すれば、大企業の背中を押すことに繋がるかもしれない。ちなみに、年収アップの費用はローソンが4億円(対象は約3,300人)、ワークマンは3千万円(同212人)だそうだ。大企業に限らず、業績好調な企業や現金を豊富に保有する企業の前向きな検討を期待したい。

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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済

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