コラム
2013年02月14日

韓国における積極的雇用改善措置制度の効果 ― 女性の雇用改善や地位向上に与えた影響 ―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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韓国政府は女性の雇用拡大及び差別改善のため、2005年12月に男女雇用平等法を改正し、2006 年3月 1日から積極的雇用改善措置制度を施行した。積極的雇用改善措置制度とは、積極的措置(Affirmative Action)を雇用部門に適用したもので、政府、地方自治体及び事業主などが、現存する雇用上の差別を解消し、雇用平等を促進するために行うすべての措置やそれに伴う手続きを言う。この制度は、少子高齢化に伴って、国や企業の持続的な成長のためには女性の労働力がより活用されるべきであるという社会的要求や企業の必要性により導入されることになった。

当制度は、導入当時(2006 年3月)には常時雇用労働者 1,000人以上の事業所に義務づけられていたが、2008 年3月からは適用対象が 同500 人以上の事業所や政府関連機関まで拡大され、現在に至っている。当制度の主な内容は(1)対象企業の男女労働者や管理者の現状を分析すること、(2)企業規模及び産業別における女性や女性管理職の平均雇用比率を算定すること、(3)女性従業員や女性管理職比率が各部門別において平均値の60%に達していない企業を把握、改善するように勧告することであり、対象企業は毎年3月末に雇用改善の目標値や実績、そして雇用の変動状況などを雇用労働部1に報告することが義務づけられている。

企業から提出された報告書は雇用平等委員会2が検討し、女性の雇用実績が優れた企業は『男女雇用平等優秀企業』として選定、表彰を行う。また、優秀企業に選定された企業に対しては次のようなインセンティブ措置を講じている3

― 3年間「男女雇用平等の優秀企業の認証マーク」の使用を許可
   ― 地方労働局で実施する労働関連法の違反に関する随時点検の免除
   ― 政府主催の入札に参加した時に加点(0.5点)を付与
   ― 中小企業庁主催の入札に参加した時に加点(0.5点)を付与
   ― 従業員の職業能力開発を支援する能力開発費用の貸出制度を優秀企業の従業員に優先的に提供
   ― 女性の雇用環境改善のための資金融資事業、勤労福祉公団の勤労奨学事業、中小企業福祉施設融資事業を優秀企業に優先的に適用
   ― 優秀企業を紹介する冊子を制作し全国に配布したり、マスコミやインターネットを通じて優秀企業についての広報を実施

では、韓国における積極的雇用改善措置制度はどのぐらい効果を上げているのか。当制度の適用対象である1,674事業所が2012年3月に雇用労働部に提出した資料によると、女性従業員比率は2006年の30.7%から2012年には35.2%まで上昇している。また、女性管理職4比率も同じ期間に10.2%から16.6%まで増加した5

一方、2012年に初めて調査された女性役員比率は1,000人以上の事業所が7.4%、999人以下の事業所が8.4%といずれも低く、さらに対象の66.6%に当たる1,115事業所では、女性役員が一人もいなかった。制度の施行により女性の雇用環境が以前と比べて改善されてはいるが、まだすべての企業まで定着しているわけではない。

 

図表1)韓国における女性従業員や女性管理職比率の動向

 出所) 韓国雇用労働部(2012)「積極的雇用改善措置制度の男女労働者現状分析結果(2012年)」http://www.aa-net.or.kr/


しかしながら女性役員の登用は、大企業を中心に少しずつ増加しており、今後さらなる増加が予想されている。韓国における30大グループや金融会社における女性役員について調べた調査結果6によると、2012年現在の30大グループや金融会社の女性役員数は182名で1年前と比べて34人も増加している。人数別にはサムスンが44人で最も多く、次はKT(27名)、LG(16名)の順であった。特に、サムスンの場合は李健熙(イ・ゴンヒ)会長が2011年8月23日にサムスン電子の社屋で行われたサムスングループ女性役員との昼食会で「今度は女性の最高経営者(CEO)が現れるべき」と述べ、女性人材の重要性を強調しており、今後サムスンを中心とした韓国企業の女性役員の数は徐々に増加する可能性が高い。

間もなく誕生する女性大統領時代に積極的雇用改善措置制度が女性の雇用や地位向上に今後どういう役割をするか注目されるところである。

 

図表2)韓国における30大グループの女性役員の数(2012年)

 


図表3)韓国における金融大手の女性役員の数(2012年)


 
  日本では厚生労働省の労働関係部局(旧労働省)にあたる韓国の行政機関。
  日本では厚生労働省 雇用均等・児童家庭局 雇用均等政策課にあたる韓国の行政組織。
  アメリカ、カナダ、オーストラリアでは、企業が積極的雇用改善措置における目標を達成しなかった場合、政府との契約解除、政府からの助成金支給の中止、罰金の賦課などの強力な制裁措置が行われていることに比べて、韓国ではまだ制裁措置がなく、インセンティブ措置だけが実施されている。
  積極的雇用改善措置制度における管理職とは、企業の公式的な組織図上において、職級とは関係なく部署単位の責任者を言い、業務指揮及び監督権、人事考課権、決済権を持っている者である。
  日本企業における係長相当職以上(役員を含む)に占める女性の割合は8.7%:厚生労働省「『平成23年度雇用均等基本調査』の概況」、国によって管理職の基準が異なるため、韓国と直接比較することはできない。
  韓国経済マガジン(2013)『韓経ビジネス』第896号、2013年1月30日
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~  日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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