コラム
2013年02月08日

デフレは解消できるのか? ~ 地価下落への対処には、頻繁な制度改正のない透明性のある課税方式への見直しが重要 ~

社会研究部 土地・住宅政策室長   篠原 二三夫

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平成25年度税制改正大綱の公表に先立つ平成24年9月から11月にかけて、貸家着工戸数は、相続税や消費増税のアナウンスメント効果によって、突如大きく伸びた(2012-12-18付け拙稿研究員の眼など参照)。この事例だけではなく、従来から相続税や固定資産税、譲渡所得課税など、様々な税制改正によって、土地・住宅市場は幾度も翻弄されてきた経緯がある。

過去の大まかな動きを振り返ってみたい。まず、地価が高騰したバブルの形成期には相続税の負担軽減が図られている。しかし、「土地は有利」との政策判断に引きずられたまま、制度整備や透明性の確保の観点から路線価による8割評価がバブル崩壊後の平成4年から実施されてしまった。従前の7割評価からの引き上げであることに加え、公示地価が地価下落期に市場価格よりも高めに推移したため、特に地方都市では評価額が市場価格の8割を超える逆転現象が数多く生じることとなった。

固定資産税についてもバブル崩壊期の最中、平成6年度の評価替えから、従来は公示地価の3割程度であった固定資産税評価額を7割程度とすることとなり、経過的に負担調整措置が講じられたものの、実質的な増税が進められた。さらに家屋の固定資産税評価の仕組みに不合理な面があったため、土地のみならず家屋の評価額は高止まりし、時価に対する固定資産税の実効税率は上昇を続け負担感が増大したというのが筆者らの見解である(1)。固定資産税の負担上昇は地方財政を支えるために一定の役割を担ったが、当該地方公共団体の不動産所有者に対する応益は増すことなく、所有者の毎年の税負担は限界に近い状況で推移し、特に地方では地価下落が長期に続く要因となった。

譲渡所得課税では、平成4年に長短期の分離譲渡所得に対し一律39%(内住民税9%)という重課が行われた結果、前年に17.9兆円あった長短期分離課税所得額は一瞬にして5.4兆円まで落ち込んだ。このような状況がありながら、この重課は平成8年の税制改正まで続き、その後も直ちに緩和されることはなかった。平成4年以降は既にバブル崩壊期にあり、何故取引をロックイン(2)させるような重課を続けたのか、政策ギャップがもたらす税制の失敗として典型的な事例と言える。

このような税制改正の歴史が、土地や住宅価格が20年を超えて長期にわたり下落するという、世界でも前例のない状況をもたらす要因になったと判断される。土地を譲渡せずに固定資産税や相続税負担を軽減しようとすれば、土地所有者は需要がなくても賃貸住宅などを建設することとなり、結果として空き家が増え、不合理な土地利用が行われることとなった。今後のまちづくりにおいて、この歪みの改善には長い年月と大きな負担・損失をもたらすことだろう。

今、株式市場は2%のインフレターゲット導入によって改善の兆しを見せている。バブル形成と資産価格の下落、デフレの長期化という流れを振り返ると、株式の次は不動産市場にも同様な効果が出てくることが期待される。しかし、不動産市場は、人口減少や高齢化という根本的な課題に直面しており、市場関係者は、あらゆる面で付加価値の高い土地利用を実現すべく、引き続き努力する必要があるだろう。

こうした努力に加え、不動産市場の活性化を促すには、これまでのようなタイミングを逸した頻繁な制度改正を避け、合理的で透明性が確保され、投資家や消費者の意欲を妨げることのない、市場重視の土地・住宅税制に向けた見直しが必要である。こうした対応なくしては、現存する地価下落などの資産デフレや、資産デフレによる一般財までのデフレを解消することは難しい。不動産価格情報の透明性は大きく改善してきたが、そもそも年単位の税制改正では必ず市場とのギャップが生じる。今後は市場をコントロールするために税制を用いるべきではない。


 
(1)  弊研究所所報、大柿・浅田・篠原(2008)「家屋に係る固定資産税評価について(2)」を参照。

(2) 譲渡所得に対する税率が高いと、資産譲渡が妨げられ、資産を凍結させるロックイン効果が働くと考えられている。

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社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫 (しのはら ふみお)

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

(2013年02月08日「研究員の眼」)

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