コラム
2013年02月04日

クルム伊達公子選手に学ぶ~世界に誇る中小企業の技術と技能の伝承~

  山田 善志夫

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先日、テニスの全豪オープン女子シングルス3回戦で、42歳のクルム伊達公子選手が21歳のボヤナ・ヨバノフスキ選手(セルビア)と対戦した。試合は、戦前予想されたとおり、力の限りエースを決めようとするヨバノフスキ選手に対して、伊達選手が熟練の技で対抗する展開となった。左右前後に打ち分け、伸びる球があれば、落ちる球もあるといった、まさに技のオンパレードのような伊達選手のストロークを見ながら、私はふと、伊達選手の1ストローク、1ストロークに、21歳の後輩に対する技術と技能の伝承のメッセージが込められているのではないかと感じた。

さて、産業界においては、団塊の世代が60歳を迎え始めた2007年に、技術と技能の伝承が「2007年問題」として注目を集めた。この時には定年延長や再雇用等の対応により、問題は表面化しなかったが、問題が解決されたわけではなく、団塊の世代が65歳を迎え始めた現在でも、企業、特に中小企業にとって、技術と技能の伝承は経営上の大きな課題として残っている。

2012年9月に、大阪市信用金庫が中小製造業を対象に実施したアンケート調査*によれば、「自社にとって基幹的ともいえる重要な技術が、60歳を超えた高齢の従業員に偏在している状況がある」と答えた企業が94.0%にのぼった。一方、「若手への技術継承が問題なく進んでいる」と答えた企業は12.5%にとどまっており、「若手への技術継承」の進み具合が十分とはいえない状況にあるという結果となっている。「技術継承が進まない理由」としては、「継承すべき若手がいない」が47.0%でもっとも多く、「多忙で手が回らない」の33.1%、「従業員が継承に消極的」の17.5%が続いている。

中小企業にとって、自社の活動を支える基幹的な技術と技能を磨き、育て、伝承していくことは、まさに経営そのものであり、それが停滞した時、また失敗した時には、即、事業縮小や事業存続の危機に直面する。しかし、多くの中小企業は売上の増加や黒字の確保といった目前の課題に追われて、技術と技能の伝承という課題に対して、自ら有効な対策を講じ得ていないのではないだろうか。中小企業自身を守るとともに、世界に誇るその技術と技能を守るために、技術と技能の伝承に必要な、雇用の促進や人材の供給、ノウハウ情報の提供、さらに資金の支援等について、国や地方公共団体等による、より一層強力な支援が求められている。

試合後、ヨバノフスキ選手は「あんな42歳になりたい」と言った。試合には敗れたが、伊達選手の技術と技能はヨバノフスキ選手にしっかりと受け継がれたのではないだろうか。


 
* 「中小製造業における技術継承(2012年問題)について」(調査対象:大阪市信用金庫取引先企業、有効回答数:626社)

山田 善志夫

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