コラム
2013年01月30日

大胆な金融緩和に舵を切る日銀~成否のカギを握る目標の適切さ~

櫨(はじ) 浩一

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1.インフレターゲットの導入

政府・日本銀行は、政府が機動的な財政政策と成長戦略の実施に取り組む一方で、日本銀行は消費者物価上昇率2%を目標とした金融緩和を行うとする共同声明を発表した。政府と日本銀行が連携して、早期のデフレ脱却と持続的経済成長を目指す方針だ。昨年末の総選挙頃から、為替レートは急速に円安、株価は大幅に上昇しており、市場の期待は大きい。
   期待を支えているのは、日本銀行が消費者物価上昇率を2%とすることを目標とするという、いわゆるインフレターゲットが採用されたことである。しかし、日本銀行は、この共同声明が発表される以前から、当面は1%の物価上昇率を目途とするが、中長期的には2%以下でプラスの物価上昇率が望ましいとしていたのだから、それほど大きな変化はないとも見える。大きな違いは、2%という物価上昇率の数字が明確な数値目標となったことである。


2.数値目標の功罪

社員や組織に明確な数値目標を与えるという手法は、企業でも良く見かける。社員にとっては自分に何が期待されているのかが明確になり、現状と目標を比較してどの程度頑張らなくてはならないのかが、はっきりわかるという利点がある。しかしその一方で、目標があまりに高すぎると、短期的な目標を達成するために無理なことが行われるようになり、長期的には会社にとって望ましくない結果を引き起こすこともある。それぞれの社員や組織にどのような水準の目標を与えるのかが、この手法の成否を分けるカギである。
   さて、安倍総理は経済財政諮問会議で、消費者物価上昇率を2%にするという目標の達成には日本銀行が責任を持って取り組んでもらいたいと述べたと報じられている。日本銀行がこれまで十分な金融緩和を行ってこなかったので、現在のようなデフレ状態が続いているが、日銀が真剣に取り組めば目標の達成は可能だと考えているのであろう。日本銀行が最善を尽くしてこなかったという不信感が根底にあるように見えるのは残念だ。
   こうなってしまった原因は日銀側にもあると考えるが、それはさておき、この政策の結果は我々の生活に大きな影響を与える。日銀のような中央銀行は政府から独立している方が経済は安定する、という経験則に反することをしようとしていることは確かである。


3.目標設定は適切か?

目標設定には関与するものの、それを実現する手法や手段を全面的に日本銀行にまかせれば、日本銀行の独立性は維持されていると言えるだろうか?形の上では独立性は維持されていても、四半期ごとに経済財政諮問会議で「金融政策、物価等に関する集中審議」を実施し、進捗状況をチェックすることになっており、達成時期や目標水準の変更を日銀の判断で決められるわけではない。1月22日の諮問会議で共同文書が報告されたわずか2日後の24日には次の会議が開催されて、早くも第一回目の集中審議が行われている。日銀に目標を早期に達成するように強い圧力が加わっているのは、誰の目にも明らかだ。
   もちろん政府側の主張を強く支持している高名な経済学者や民間エコノミストが何人もいるのだから、日銀が行うべき手段にはめどがあってのことだろうとは思うが、筆者の知る限り、現在提案されているような手段はどれも相当な副作用が懸念されるものばかりだ。成否は、「2%の物価上昇という目標は大きな悪影響が出るような無理なことをしなくても日本銀行が工夫すれば達成できる」という見立てが正しいかどうかにかかっている。

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