コラム
2013年01月24日

黒田夏子さん芥川賞おめでとうございます―結晶性知能による結晶のかがやき―

中村 昭

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「すごいわね~!」「やるもんだな~!」「私もがんばらなくちゃ!」と、日本中に感嘆符があふれたことと思います。

第148回芥川賞受賞作に「abさんご」が選ばれましたが、作者の黒田夏子さんは、これまでの受賞者の中では最年長の75歳の女性でした。文藝春秋社のHPの受賞者紹介欄には、『1937年東京生まれ。早稲田大学教育学部国語国文科卒業。教員・事務員・校正者などを経て、2012年「abさんご」で第24回早稲田文学新人賞を受賞しデビュー。』とあり、まさしく75歳の新人のデビュー作での芥川賞受賞でした。

昨年は、夏のロンドンオリンピックでの若者世代の活躍に歓喜し、続いて山中伸弥教授のノーベル医学・生理学賞受賞という壮年世代の偉業達成で年を終えましたが、今年は、シニア世代の活躍での幕開けとなりました。

さて、「年をとると物忘れが多くなって、、、」とお嘆きの方も多いでしょう。還暦が近づきつつある私も、最近とみに人名を思い出せなくなりまして、老人力がついてきたなどと自嘲しているのですが、実はこれは大きなあやまりなのです。

人間の知能は、「流動性知能」と「結晶性知能」の二つに区分されるそうです。流動性知能とは、新しいことを学習する知能や、新しい環境に適応するための問題解決能力などであり、青年期にピークを迎え加齢とともに衰退します。結晶性知能とは、学校で受けた教育や、仕事・社会生活の中で得た経験に基づいた知能であり、経験と思考を積み重ねることにより高齢期でも伸び続けていきます。

この二つの知能の組み合わせにより人間の能力は決定されますので、「加齢とともに知力が衰える」わけではないのです。電話番号や人名などの「短期記憶能力」は、年を取ると低下していきますが、「言語(語彙)能力」は、年を取っても伸び続けます。さらに、最も大事な「日常問題解決能力」も、長く生きて経験を重ねていく中で、伸び続けていくのです。


黒田さんは、著作の公表こそされていませんでしたが、ずっと継続して執筆活動を続けられてきたそうですので、たゆまぬ努力の反復のなかで、まさしく結晶性知能を日々高められて、今回の素晴らしい結晶を生み出されたのだと思います。

残念ながら、どこも売り切れの状況ですので、「abさんご」はまだ未読ですが、増刷決定分の予約がうまく出来ました。私自身の結晶性知能を鍛えるためにも、早く読ませていただきたいとわくわくしています。

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中村 昭

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