コラム
2013年01月16日

市場参加者の合意が意味を持つ範囲-50円玉の穴を通して考える

金融研究部 准主任研究員   高岡 和佳子

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「エラーコイン」をご存知だろうか。鋳造ミスと検品ミスが重なり、規格外れの形状で流通してしまった貨幣のことである。5円玉や50円玉には穴が開いているが、穴が開いていないものや、その位置がずれているもの等があるらしい。造幣局とはいえ、人間のすることにミスは付きものである。規格外れの貨幣が流通していること自体には驚かないが、それが相当高い価格で取引されていることを知り驚愕した。規格外れの程度により価値が異なるようだが、穴の位置が数ミリずれているだけで数万円の値が付くらしい。数ミリ程度の差なら気づかず使ってしまった可能性もある。無駄だとはわかっていても、捕ったもののリリースしてしまったかもしれない狸の皮算用をしてしまう。

さて、会計用語に「公正価値」というものがある。公正価値とは評価日において市場参加者間で秩序のある取引が行われた場合に受け取る(または支払う)であろう価格である。50円玉のエラーコインが数万円で取引されるなか、別のところでは同様のエラーコインがその価値に気づかれず50円で取引されているかもしれない。ならば、エラーコインの公正価値はいくらだろうか。その答えを導くカギは「市場参加者の要件」にある。全ての入手できる情報に基づき、取引について合理的な理解を有していることが市場参加者の要件として定められている。価値を知らずに50円で取引した当事者は、全ての入手できる情報に基づき取引したとは考えにくい。ならば、エラーコインの公正価値は数万円ということだろうか。

では、50円玉のエラーコインを銀行で両替するとどうだろう。エラーコインが高値で取引されている事実を行員が知っていたとしても、50円として取り扱われるのではないだろうか。もちろん、親切にコインショップへ持っていくことを勧めてくれるかもしれないが、公正価値は必ずしも真の価値と一致しない。しかし、実際は真の価値が分からないので、真の価値に近かろう値として公正価値が必要とされる。真の値に近かろうと思われる拠所は、現時点で知りえる情報を全て用い、かつ取引に関する合理的な判断が出来る複数の市場参加者が価値を判断し、合意に至った事実であることは言うまでも無い。

注意が必要なのは、現時点で知りえる情報のみを利用している点である。仮に、これまで検品により流通させず貯蔵していたエラーコインを一斉に流通させるなどの発表があれば、エラーコインの価格は下落するだろう。公正価値は現時点で最も真の価値に近いと思われている値であり、決して真の価値では無い。より有用な情報が入手されると、市場参加者の価値判断はいともたやすく変化することを忘れてはいけない。

市場取引が盛んでない金融派生商品などの価値評価を行う際も、やはり市場参加者の合意が重視される。現時点の価格を評価することが目的なのだから、至極当然の話である。しかし、将来予測についても市場参加者の合意を重視することに意味があるかと問われると困ってしまう。

現時点で知りえる情報を最大限生かして将来を予測していると言われれば、重視すべきだとも思えなくもない。しかし、将来予測という点では、将来どのような情報が得られるかといった不確実要素の影響が多分にある。加えて、一般に人は不確実性を嫌うため、不確実性の程度だけでなく市場参加者の不確実性を嫌う程度に応じて価格は減価される。厄介なことに市場参加者の不確実性を嫌う程度もその時々で変化する。そう考えると、現時点の市場参加者の合意に基づく価格情報を将来予測において参考にすることに意味はあっても、参考の域を超えないのではないか。裏を返せば、市場参加者の合意に基づく価格情報を将来予測に用いたところで、予想的中率が大幅にアップすることは期待できない。市場参加者とはいえ人間なのだ。

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金融研究部   准主任研究員

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

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