コラム
2013年01月15日

「定年」と「退職」-いつまでも“個”活かせる「停年」社会

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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「定年」を辞書で調べると、「法規・規則によって退官・退職するきまりになっている年齢」(広辞苑第六版)とある。つまり「定年」=「退職」なのである。しかし、最近では「定年」の概念が少し変わりつつある。その背景には、昨年8月の高年齢者雇用安定法の改正により、今後、企業は希望者全員を段階的に65歳まで雇用継続することが義務付けられたことがある。今年、私が受け取った年賀状の中にも、『昨年、定年になりましたが、今年も引き続き同社に勤務しています』といった文面が複数あった。このように「定年」は必ずしも「退職」を意味しなくなり、今後の退職パターンは多様化するだろう。

アメリカには「雇用における年齢差別禁止法」(The Age Discrimination in Employment Act of 1967)があり、40歳以上の労働者を対象に、年齢を理由に企業は従業員の採用・昇進等の差別や解雇を行うことができない。実際、加齢状況は個人差も大きく、「働く意欲と能力」のある人は、年齢にかかわらず働くことができる多様な雇用環境整備が必要だ。特に、本格的な人口減少時代を迎える日本では、労働力人口の確保が大きな社会的課題であり、定年制の是非も検討する必要があるだろう。

しかし、年齢による強制的退職といえる定年制がなくなれば、年功序列的な賃金体系もなくなり、ビジネスパーソンは常に自己能力の時価評価に晒されなければならない。そして現在の処遇が過大なのか過小なのか、または妥当なのかを判定されることになる。中高年の転職で、『あなたは何ができますか』と問われ、『私は部長ができます』と答える人は、速やかに後進に道を譲り、新たな能力開発に取り組むことが必要だ。それが長い目でみると本当に自己を活かすことになるからだ。

私には建築設計事務所を自営する友人が少なくない。彼らは自分で「退職」の時期を決められるが、その意思決定は難しいと話す。時々、『会社勤めのサラリーマンは、定年があっていいな』と言われることもある。確かに「定年」がなくなると、いつ「退職」するのかを含めた「退職」までのキャリアプランやその後のライフデザインが重要になり、自分で決める人生は時に負担に感じるかもしれない。しかし、「定年」という他者から決められる生き方を好まない人もいるだろう。

「退職」とはこれまでの雇用契約の解除であって、社会からの退出ではない。一度きりの人生を充実して暮らすためには、年齢にかかわらず自らの能力を社会の中で活かし続けることが重要だ。私は今年還暦を迎えるが、もう“年とるのは停めよう”と思う。これからは年齢にとらわれずに、いつまでも“個”活かせる「停年」社会を生きようと思うのである。


 


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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

(2013年01月15日「研究員の眼」)

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