コラム
2013年01月04日

人生の終わりまで住み続けられるマイホームが欲しい

  松村 徹

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住宅やオフィスビル、商業施設など日本の不動産における建築・設備やデザイン、付帯サービスなどのクオリティは、経済成長の軌跡と相まって目覚しく向上してきた。特に、東日本大震災後、防災機能や省エネ・創エネ・蓄エネ機能が新しい付加価値となって一段の進化をみた。いまや、誰もが働きたくなるオフィスビル、誰もが住みたくなるマンション、誰もが楽しめる商業モール、誰もが快適に過ごせるホテルはいくらでも目にすることができる。しかし、ことシニア向け不動産に限って、誰もが自分の人生の終末期を過ごしたくなる住まいがあるとは思えない。周囲に聞いても、自分はできるならそういった高齢者専用の住宅や施設には入りたくないと言う。たいていの中高年者は、自分が介護施設や病院で終末期を過ごすより、できる限り自宅に住み続けて最後を迎えたい、という気持ちを強く持っているためだ。

そもそも、長生きすれば老化や病気は避けられないが、誰もが要介護状態や認知症になって施設で終末期を過ごすわけではないはずなのに、シニア不動産というと、介護や医療が必要になった高齢者の受け皿を整備する、という視点から語られ過ぎているように思う。また、日本の高齢化が急速に進んで需要が急増した反面、重度要介護者への対応として整備された施設と、高額な一時金と管理費を支払う民営の有料老人ホームしか選択肢がない、いびつな供給構造となっていることも問題であろう。重い住宅ローンの負担に耐えてようやく手に入れ、長く馴染んだ自宅から、人生の最後の最後になって出て行かざるをえないのは哀しいことだ。自宅をバリアフリーに改修して24時間在宅介護のヘルパーを雇うことができる蓄えがあっても、譲渡や相続ができない有料老人ホームの利用権に何千万円も支払った上に、多額の管理費を毎月払い続ける生活をあえて選択する人がいるのは、現在の在宅介護システムに不安が大きいためではないかという見方もある。

以前から、終末期に病気で寝付いてしまうことを恐れる気持ちから、「ぽっくり往生」信仰のお寺が各地にあり、「PPK(ピンピンコロリ)」が理想の老人ライフとされてきた。社会の高齢化が進んだ現在、いつまでも若々しく健康であるためのアンチエイジング(抗加齢)技術や関連商品がもてはやされる一方、苦痛を長引かせるだけの延命医療に疑問を投げかける動き も強まっており、「終活」や「エンディング・ノート 」への関心が高まるなど、人生の終末期をどのように迎えるかを自然体で議論できるようになってきた。問われているのは、終末期のQOL(生活の質)、人間の尊厳をどのように維持するかということだ。幸いなことに、介護施設や病院に入らずに人生の最後まで在宅を基本にして暮らせることを目指す「地域包括ケアシステム」の考え方が介護現場で強まり、国の政策もそのような方向に動き始めている。おりしも、国ではヘルスケア不動産への投資拡大が議論されているが、要介護となった高齢者専用のシニア不動産だけでなく、多様な世帯が壮年期から終末期までできるだけ長く住み続けられる、“揺りかごから墓場の手前まで”なるべく自立しながら、安心かつ快適に過ごせる「マイホーム」の検討も必要ではないか。

このとき、管理会社など外部専門家の協力を得ながら住宅を共同管理する仕組みで、コミュニティとしての危機管理機能 も備えた一般向けの分譲マンションがモデルになるだろう 。ポイントは、まず数世代にわたって使用できる長寿命の構造躯体を持ち、バリアフリー性が高く、将来の室内改装が容易な「長期優良住宅 」であることが絶対に必要だ。また、見守りサービスや引きこもり防止、各種相談の受付など高齢期の在宅生活を支える様々なサービスメニューや設備 をオプションとして、必要に応じて居住者が選択できる仕組みや体制も欠かせない。さらに、高齢者の生活支援をひとつのマンションで完結させず、多数の住民が住むマンションの利点を活かし、地域の介護や医療体制を最大限活用できるよう行政や地域福祉などと連携する仕組みを持つことも重要だ 。もちろん、マンション居住者の高齢化の進行度合いに合わせた、あるいは住宅設備や介護補助機器などにおける技術革新、社会福祉制度の見直しなどへの対応余地を残した、柔軟な住戸プランや管理方針であることが望ましい。その他、間取りや共用施設のあり方、管理組合運営の工夫など、細かなアイデアはいくらでも出てくるはずだ。いずれにしても、このような分譲マンションであれば、通常のマンションより価格が高くても、長期の住宅ローン負担も苦にならないだろう。自分や家族の将来のため、不動産プレイヤーは、介護関係者や医療関係者と力を合わせて、文字通り「終の棲家」になりうるマイホームを提案して欲しい。


 
 出版物の一例をあげると、久坂部羊『日本人の死に時~そんなに長生きしたいですか』幻冬舎のほか、中村仁一『大往生したけりゃ医療とかかわるな~「自然死」のすすめ』幻冬舎、石飛幸三『「平穏死」のすすめ~口から食べられなくなったらどうしますか』講談社、田中奈保美『枯れるように死にたい~「老衰死」ができなくなったわけ』新潮社などがある。

 万一に備えて自身の希望を書き留めておくノートのことで、家族などに伝えるため、自身が死亡したときや、判断力・意思疎通能力の喪失を伴う病気にかかったときに希望する内容を記すもの。


 最近のシニア不動産市場では、利用権方式の有料老人ホーム以外に、介護サービス付高齢者賃貸住宅(2011年10月に制度が創設されたもの)、あるいは区分所有権型で食堂や集会場などの共用施設、健康サービス、緊急時対応が充実した中高齢者専用マンションも増加してきているが、ここでは、入居者の年齢制限がなく、単身者からファミリーまで誰でも購入でき、多世帯が集まって住む一般向け分譲マンションを想定している。

 2009年6月施行の「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて国が認定した住宅を指す。

 たとえば、緊急対応のための設備として、緊急コールボタン、生活リズムセンサー、室内スピーカーなどがある。

 この項については、吉村直子『マンション居住者の高齢化にどう対応するか~居住者・管理会社の新たな取り組み』長谷工総合研究所、CRI、2012年11月号を参考にさせていただいた。

松村 徹

研究・専門分野

(2013年01月04日「研究員の眼」)

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