コラム
2012年12月26日

「史上最高額の選挙」、米大統領・議会選を振り返る~米最大の政治イベント、飛び交う資金の成果は?

  土肥原 晋

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●拡大辿る資金集め
   年初から予備選が繰り広げられた米国の大統領選挙は、11月のオバマ大統領再選で締めくくられた。選挙の結果、選挙人獲得数ではオバマ大統領332人、ロムニー候補206人と大きく開き、オバマ大統領の圧勝にもみえるが、選挙直前に開催されたテレビ討論会後には、ロムニー候補の支持率が一時オバマ大統領を上回るなど、接戦も予想された。このため、終盤の選挙戦は激しさを増し、両陣営の集めた資金はそれぞれ10億ドルを超えた。
   こうした資金は個人や企業の寄付金による。オバマ大統領への寄付金は小口ネット献金等を通じた250ドル以下が多く、半面、ロムニー候補は一口が2千ドルを超え、企業や大口献金を集金可能な“スーパーPAC(注1)”に強みを持つ。言うまでも無く、資金集めが上手な候補者がよい大統領となるわけではなく、集められた資金の大半がテレビ広告を通じたネガティブキャンペーンに費やされたことを考慮すると、一見無駄にも見える。しかし、これが米国の選挙戦の特徴であり、一概に否定的な側面ばかりと言えない面もある。
   まず第一に、献金は支持者からのものであり、小口の範疇に入る250ドルは、一般個人にとっては“小口”ではなく、なけなしの額かもしれない。当然のことながら、候補者が魅力的でなければ資金の集まりは悪い。資金量は選挙戦を勝ち抜く上で極めて重要であり、集めた資金額自体が候補者の支持度合いを測る一つの目安ともなっている。重要なことは候補者自身が金持ちである必要が無いことだ。オバマ大統領の一期目の選挙時には、ネットを利用した小口寄付金の集計で共和党の候補を上回り、当時としては個人献金の最高額を集金していた。

(注1)企業や団体からの政治献金の受け皿となる選挙資金管理団体のこと。2010年に5千ドルの上限が撤廃、資金集めに拍車をかけたとされる。

●大統領候補に必要なもの
   大統領候補が長期間に渡る選挙戦を勝ち抜くには、巨額の資金のほかにも、全米を飛び回る体力と他候補者の攻撃(多くはネガティブキャンペーン)をかわす機転と精神力が必要とされ、さらに、労苦をいとわない多数のボランティアと、資金提供を惜しまない多数の熱烈な支持者が不可欠となる。
   米国の大統領候補に選出されるには、多くの候補者の中から各州の予備選を勝ち抜き、秋口の党大会で大統領選候補者として指名されることが必要となるが、 予備選は同一政党の中で行われるため対立候補との政策的主張の相違は小さく、勢いネガティブキャンペーンに走りがちだ。前回の大統領選でヒラリー・クリントン候補が党内対立候補のオバマ氏に声を荒げた事は大きく報道された。
   また、党の大統領候補となってからの二カ月余は、対立政党候補との激しい選挙戦が繰り広げられる。今回のネガティブキャンペーンでは、ロムニー候補の失言が繰り返しテレビ放映され(注2)、その結果、ロムニー候補の支持率が低下するなど痛手を受けた。この映像は、統一候補になる前の4・5月に支持者の集会で隠し撮りされたものが、選挙直前になって執拗に放映された。ネガティブキャンペーンに馴れていない日本だったら、その手法が非難され逆効果となっていたかもしれない。
   こうした厳しい選挙戦を勝ち抜くことができれば、大統領としての重責ですら重荷とはならないのかもしれない。オバマ大統領が第一回のテレビ討論会で躓いたのは、4年間大統領として、対立政党を含め周囲から丁重に対応されてきた中で、いきなり相手候補の激しい攻撃に晒されたためとの見方もある。いずれにせよ、こうして選出された大統領が就任後に途中交代するのは極めて異例のこととなる。任期4年の大統領選出には、1年程度をかけることも、それなりの成果を生んでいるのかも知れない。過去6代に渡り、総理が1年前後で交代した日本とは大きく異なるシステムであり、民主主義の盟主を自認する米国ならではの選別方法と言えよう。

(注2)オバマ陣営がネガティブキャンペーンに使用したロムニー候補の失言:
      (1)オバマ大統領の支持者である47%の人は政府に依存する人で、そうした人を気にかけることはしない(4月以降の支持者の演説会で)。
      (2)パレスチナ人は和平を望んでいない(5月フロリダの集会で)。

2012年大統領・議会選挙の結果

●大枚投じて変化なしの勢力構造、判定の出なかった「財政の崖」
   大統領選と同時に行われた議会選を含めると今回の選挙に投じられた総額は60億ドルを超えるとされる。大統領選での両陣営の投入額推計は26億ドルで前回を下回ったと見られるが、議会選を含めた総額では前回(54億ドル)を上回ったとされる。やはりその多くがテレビ広告であり、ネガティブキャンペーン等に費やされる。だが、そうした資金を拠出するのはそれぞれの支持者であり、税金ではない。そのため、一定のルールに基づいて集められた資金がやはり一定のルールの下に使われる限り、資金面への批判が特に高まっているわけでもない。テレビ会社にとっては4年毎の一大イベントで、雇用や景気にも貢献しており、国民もイベントして割り切っているようにも見える。ただ、ネガティブキャンペーン等のCMは、激戦州に集中的に投入されるため、そうした州の視聴者を中心に評判がよいわけではない。
   ただ、今回の結果として、選挙前の勢力図にはほとんど変化がなかった。そのため、オバマ大統領と議会下院共和党とのネジレが維持され、選挙前から懸念されていた「財政の崖」への対応にも、選挙での回答が得られず、争点として残された。新議員での議会は新年からであるが、勢力図が変わらない限り、「財政の崖」を先送りしても直ぐに決着がつくわけではない。実際、懸念されたとおり「財政の崖」問題はクリスマスが過ぎても膠着しているが、それでも選挙前とは異なり一定の歩み寄りも窺える。結局、選挙結果は「互いに歩み寄りが大事」との教訓を示した形である。それぞれの候補・政党に投票した有権者も混乱の持続を望んだわけではあるまい。巨額を投じた選挙戦を生かすためにも、建設的かつ迅速な合意が必要とされよう。

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