コラム
2012年12月26日

屋外緑化は当たり前 - 次のテーマはインドア・グリーン

松村 徹

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この夏、東京都心部で完成した大型複合ビルでは、鳥や小動物が生息できる緑地と水辺を再現した「こげらの庭」が話題となった。来春には、大型オフィスビルの低層部に約3,000m2におよぶ重層的な緑化空間「京橋の丘」が、2014年春には、3,600m2の人工地盤上に200本を超える高木が密集する「大手町の森」が出現する。新宿区では、工場の地下化によって生まれる約2ヘクタールの公開空地を緑化する「市谷の森」が建設中だ。ビルの敷地や屋上、壁面などを使った大規模な緑化は、1995年、福岡市天神の「アクロス福岡」に設けられた13層5,400m2のステップガーデンが嚆矢だろう。大阪市では、2003年オープンの大型店舗ビルに整備された段丘状の「パークスガーデン(約3,300m2)」が先鞭をつけたが、最近では高さ120mの高層ビルの壁面全体を10年がかりで緑化する計画も発表された。いまや、ヒートアイランド対策やCO2低減効果にとどまらず、美しく質の高い緑化空間の整備は、大型建築プロジェクトの魅力づくりとして必要不可欠なものとなっている。

このように建築物の屋外緑化は目覚しく進化しているが、室内に観葉植物や花などを置くインドア・グリーンとなると、自社ビルにせよ賃借ビルにせよ、意識的かつ積極的に取組んでいる事例は多くない。高度な防災・省エネ性能を備え、屋外緑化も申し分のない最新鋭の自社ビルや、最新のICT(情報通信技術)を使いこなす企業の執務室に、まったく緑がないことに驚く経験がしばしばだ。インドア・グリーンは、日々の手入れが必要だが、レンタル業者に委託するとコストが掛かる、社内美化には役立っても生産性向上に結びつかない、地震などで転倒するとやっかいだ、設置できるようなスペースの余裕がない、そもそもオフィス内にグリーンを置く必要性を感じない、ということだろうか。しかし、インドア・グリーンは、(1)美観向上はもちろん、(2)仕切りとして室内の雰囲気を変えたり目線を切ったりできる、(3)視覚疲労を回復させ緊張感を和らげる、(4)蒸散作用で空気の乾燥を穏やかにする、(5)心を安らげる・癒す(ヒーリング効果)、(6)ホルムアルデヒドなど室内の有害物質を吸収する、といった効果が期待できるとされる。また、レンタル業者を使わず、植物栽培に興味を持つ社員有志のサークルなどが自主的にグリーンの持ち込みと世話をするなら、担当者のコミュニケーション向上やストレス解消効果もありそうだ。

ニッセイ基礎研究所では、昨年度のフロア移転に伴い、執務室内の照明器具をLED(発光ダイオード)に、照明方式を作業エリアとその周辺を分けて全体の照度を抑制するタスク・アンビエント型に切り替えるなど、オフィスのスマート化(省エネ・節電の推進)に取り組んだ。この結果、寒色系のLED照明と濃いグレーの床材、白色の内装と家具が相まって、インテリアは無機質な印象が強くなった。それこそクールでスマートなイメージといえるが、「スマートオフィス」だからこそ緊張の緩和や癒し、リフレッシュのための仕掛けや演出も必要だと考え、元気の出るビタミンカラーとされる明るい緑色をデスクの間仕切りや椅子の座面に採用するとともに、閉鎖的で暗いイメージだった図書室を、コミュニケーションとリフレッシュを促す快適な空間になるようデザインした。さらに、インドア・グリーンの効用にも着目して、オフィス内のポイントとなる箇所に、50種を超える観葉植物を配置する実験も行っている(写真参照)。

最近は、屋外で培われた自動灌水システムを備えた壁面緑化技術が、リース方式でインテリアにも応用できるようになっている。ユニット単位で植物の入れ替えが可能で、専用の給水タンクがあるため室内に給排水管を引き込む工事の必要もなく、インドア・グリーンの選択の幅がさらに広がったといえる。ICTの急速な進歩や企業間競争の激化などで職場内のストレスが高まり、メンタルヘルス管理の重要度が増している今こそ、インドア・グリーンの視覚疲労回復や癒し効果に注目してはどうだろうか。特に賃貸ビルの場合、ビルオーナーの積極的な関与次第で、インドア・グリーン普及の可能性が高まる。通常、ビルオーナーは館内細則に定めた最低限のルールをテナントに求めるものの、節電協力以外でテナント専用部の使い方について能動的に関与することは少ない。しかし、たとえば、ビル管理会社の専門資格者が、インドア・グリーンの導入や維持管理に助言・協力するようなサービスがあれば、導入に関心のあるテナントは大いに助かるだろう。温熱環境や日射状況などビルの室内環境を熟知するビル管理会社への期待は大きい。

ニッセイ基礎研究所のインドア・グリーン例

ニッセイ基礎研究所のインドア・グリーン例


 
 日本で最も小さいキツツキで、低山や平地の林、市街地などにすむ。

 第1期の緑地面積。2007年4月オ-プンの第2期の緑地面積約2,000m2と合わせて5,300m2になる。

 東京都中央区にある「パソナグループ本部ビル」は、ビルの壁面が緑化されているだけでなく、室内に灌水装置や高照度ランプを備えた植物栽培プラントがあり、年間を通じて50~60種類の野菜と約200種類の植物を栽培し、インドア・グリーンとしてだけでなく、野菜は社員食堂で提供もされている。新設された植物栽培の専門部署では10人が働く(東京新聞2012年11月30日記事より)。

 大型の建築物内のホルムアルデヒドや一酸化炭素、粉塵などについては、ビル管理法に基づく環境測定が義務付けられている。オフィスビルでは、建築基準法などに基づき必要な換気を行っているため、(6)の効果はあまりないと思われる。

 重点箇所はレンタル業者に委託しつつ、社員の持ち込み分によって柔軟できめ細かく補完する仕組みとしている。転倒対策として、鉢の下に滑り止めを敷くとともに、PCなどのあるデスク横には原則として配置しないようにしている。植物の種類選定と、種類に応じた置き場所、水遣りの頻度、連休時対応などについて試行中である。

 たとえば、一般社団法人日本インドア・グリーン協会のグリーン・マスター認定制度がある。

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松村 徹

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