コラム
2012年11月29日

どうして数学を勉強しなくちゃいけないの?

研究員   高山 武士

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グー・パーじゃんけんのルール

11月22日に当研究所は、東海大学付属浦安高等学校中等部(以下、東海大浦安中)で特別講座を行った
   東海大浦安中では過去数年間にわたって、特別講座を展開している。この講座では、生徒達が普段、学校で勉強している数学が実社会でどのように使われているかを知り、数学や社会に対して広く興味・関心を持ってもらうことを目的とした授業が行われている。
   特別講座は学校外のさまざまな機関とも連携して行われており、今年は、当研究所がこの特別講座を受け持つ機会に恵まれたのだ。

数学は広く社会で使われている割には、興味を持って積極的に勉強することが難しい科目かもしれない。「どうして数学を勉強しなくちゃいけないの?」という質問は難問で、筆者も自信を持って答えることはできない2
   「数学を知らなくても生きていけるじゃん」という考えがあるのかもしれない。
   生きていくのに最低限の算数は必要かもしれないが、テレビがなぜ映るのか分からなくても、テレビを見ることはできる。インターネットが繋がる仕組みを知らなくても、ネットで買い物はできる。Nate Silver氏は数理モデルを使いアメリカの大統領選挙の勝敗を全50州で的中させたことで有名だが、宝くじを当てることは不可能だろう。
   今の世の中、自分で料理はできなくても、お金があれば美味しいものを食べることが出来る。料理人は必要だが、みんながみんな料理人を目指す必要はない。数学も似たようなものだろう。その通りだと思う。
   ただ、数学は主要5科目のひとつであり、ほとんどの受験勉強に必要だ。社会でも役に立つ。統計などの知識は、知っていると便利なことが多いし、ビジネスでも使われている。だから、将来、自分のやりたいことをやるため、就きたい職業に就くために数学の勉強をしておくと有利だよ、とは言える。

むしろ、決定的に厄介なのが「数学はつまらない」という思いだ。
   数学が面白ければ、勉強するのに理由はいらない。「どうして数学を勉強しなくちゃいけないの?」と理由を尋ねる必要はない。
   一方で、数学をつまらなくて、やりたくないと感じているとしたら「役に立つから」という理由があったとしても勉強をするのはつらいことだろう3
   特に筆者が残念だと思うことは、数学に接する機会は多くあっても、数学に興味が持てなかったために、その面白さに気付けないことだ。
   公式の暗記ばっかりは、つまらない(テストのためだけに覚えるのはメンドーだ!)
   計算練習は重要だけど、そればっかりでは、やはりつまらない(コンピュータじゃないんだから!)

でも、数学は、そればっかりじゃない。本来は「面白い」対象なのだ。
   筆者が中学・高校だけでなく、大学でも数学を専攻したのは、面白いからだ。もちろん、全員がそう思ってくれるとは言わないが、計算練習や公式の暗記で嫌悪感を抱かれ、興味すら持ってもらえず「つまらない」と思われたならちょっと寂しい。

数学好きとしてはこのように思う訳だが、今回特別講座を引き受けるにあたって、実際に社会にかかわる分野で、しかも興味深い題材を使った授業を考えるプロセスは、意外に大変だった。
   今回の授業対象は中等部の1年生であり、そこで習う数学は、社会を見渡せば至る所で使われている。例えば、学習指導要領に従えば、中1の数学で扱う内容は「正負の数」「文字式」「方程式」「比例・反比例」などである。
   ただ、至る所で使われているからといって、高度過ぎる内容でも困る。「社会で使われている数学」の定番であり、かつ分かりやすいものとして「確率」が頭に浮かんだが、学習指導要領では中2で学習する内容となっている。結局、今回の特別授業では確率は使わなかった。
   最終的には、東海大浦安中の先生と打ち合わせをして、いくつかの案を練り、そうして決まった内容の一つが冒頭の「グー・パーじゃんけん」である。

「グー・パーじゃんけん」で使う数学は足し算と引き算くらいだが、面白い分析対象となる。ネタをばらせば「グー・パーじゃんけん」はゲーム理論で言うところの「囚人のジレンマ」の構造を持っているのだ。お互いが「協力」すれば(グーを出せば)、お互いが点数を得ることができる。ただし、お互いが自分の利益を追求しようとして「裏切る」(パーを出す)と、お互いが点数を失ってしまう。そのため、高得点を取ることはなかなか難しい4
   具体的に解説すると次のようになる。
   相手がグーを出したとき、自分がグーを出せば10点だが、パーを出すと30点得られるのでパーを出した方が良い。相手がパーを出したとき、自分がグーを出せばマイナス20点だがパーを出せばマイナス10点で済むので、この場合もパーを出した方が良い(図表2)。
   したがって、相手がどちらの手を出した場合でも、自分はパーを出した方が有利そうだ。しかし、お互いが同じことを考えるとパー同士でマイナス10点となってしまう。それならば、お互いがグーを出し合って10点を得た方が良かったことになる。
   この、お互いが損をしないようにすると良い結果を逃がしてしまうというジレンマを「囚人のジレンマ」と呼ぶ(図表3)。
   この場合はじゃんけんであるが、実社会の中にも同じ構造を持っている対象は多くある。社会現象を数値化(モデル化)して考えると、簡単な数学しか使わなくても、このような特徴的で面白い構造が浮き彫りになる。

グー・パーじゃんけんの解説/囚人のジレンマ

さて、題材は決まっても、実際の授業が盛り上がるかどうかは、東海大浦安中の生徒達がどれだけ興味を持ってくれるかに掛かっている部分も大きい。そのため、不安もあったのだが、結局その不安は杞憂に終わった。
   生徒達はとても熱心で、積極的に授業に参加してくれた。予想以上の盛り上がりを見せ、楽しく授業が出来た5。じゃんけんをするだけでなく、ゲームを通じて考えたこと、思ったことも熱心に書き、発表してくれた。生徒達が集中して授業を受けてくれたので、教え甲斐もあった。
   今回の特別講座では、この「囚人のジレンマ」のほか、「外部不経済」や「合成の誤謬」など、やや難しい経済学の概念も扱った。2コマ100分の授業なので、深い部分まで触れることは出来なかったが、特別講座を通して、数学を使って面白そうなことが研究されているな、と興味を持ってもらえたら講師としてはうれしい限りである。

さらに言えば、今回、数学に興味を持ってくれた人たちが、特別講座だけでなく、社会の様々な場所に、そして普段習う数学の中にも面白い対象が沢山隠れていることに気付いてくれたら、と思う。

最後に、今回、特別講座の講師を行う機会を提供してくださった、東海大浦安中の先生方、そして生徒の皆さんに御礼申し上げます。貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。


 
東海大学付属浦安高等学校中等部のウェブサイト(http://www.urayasu.tokai.ed.jp/junior_news/20121127-1.html)を参照。筆者と経済調査部門シニアエコノミストの上野が講師を担当した。

もしかしたら、数学だけでなく他の科目にも当てはまるかもしれないが。

数学を勉強する上で、もう一つ厄介なのが、一度躓くと理解が先に進まなくなり、どんどん授業についていけなくなる、という特徴だと思う。一歩ずつ進めば理解できるのだが、躓いたところを放置しておくと、どんどん理解できなくなってしまう。そうすると、数学がどんどん「難しく」なっていく。躓いたら、躓いた場所まで戻って、再度トライする必要がある。そのため根気も必要で、興味を持って取り組めないと、このプロセスはとてもつらいと思う。

講師側としても、「グー・パーじゃんけん」は興味深い授業となった。というのも、この「グー・パーじゃんけん」には(理論的な均衡はあるが)「正しい戦略」というものは無く、ゲームに参加した生徒達がどんな行動を取るのかは予想できなかったからである。

今回の特別講座では、最高得点は90点だった。50点を超えたのは1クラス34名中11名で過半数に満たなかった(ちなみに、このゲームでは、お互いが5回すべて「協調」すれば、50点を得ることができる)。

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高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
米国経済

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