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- 首都高が“産業遺産”になる日-東京オリンピックとポスト近代化
東京都は来年9月に決まる2020年の第32回夏季オリンピック招致を目指している。実現すれば2度目の東京オリンピックとなる。1964年に初めて第18回大会を開催したとき、日本は高度経済成長の真っただ中にあり、国中がオリンピックの熱気に包まれていた。その当時、東海道新幹線が開業し、首都高速道路(以下、首都高)が一部開通して、東京は近代都市へと変貌を続けていた。
あれから約50年が経過し、首都高の総延長は300キロを超えて首都の大動脈となった。しかし、当初に建設された都心環状線や羽田線をはじめ、建設後40年以上を経過した路線が全体の約3割を占め、大型車両の通行量が多いことからも老朽化・損傷が著しい。国土交通省は今年4月に「首都高速の再生に関する有識者会議」を設置し、10月には再生に向けた提言書を出した。
首都高は64年の東京オリンピックに合わせて短期間で供用するために、用地買収を少なくする観点から既存の道路や河川、堀などの上空を利用して整備が進められた。その結果、急カーブが多いなど安全面や水辺空間の喪失など都市景観面に大きな課題を残してきた。今回の再生案では、安全性や都市環境、首都直下型地震への対応など、単なる老朽化した道路の更新にとどまらず、これから100年を見据えた「世界都市・東京」にふさわしい再生を掲げている。特に最も老朽化している都心環状線は地下化や撤去の可能性を含めて、具体的な方策を検討するとしている。
高速道路を撤去した事例は諸外国でも見られ、韓国・ソウル市では清渓川復元工事がある。清渓川はソウル中心部を流れる都市河川だが、衛生状況や治安悪化のため1958年から本格的に覆蓋工事が行われ、その上に高架道路が建設された。しかし、その後40年が経過して老朽化が進み、高架道路の撤去と川の復元を2005年に実現。筆者も最近現地を見たが、それは単なる高架道路の撤去と川の復元ではなく、交通・文化・産業政策を総合した極めて戦略的な都市再生プロジェクトのように思われる*。
今後の都市政策はハードからソフトへ重心を移し、文化創造は都市の魅力と競争力を高めるだろう。首都高再生の方向性は、都心の交通需要と環境負荷を抑制し、人や自然、歴史と文化を中心にしたポスト近代化以降の持続可能な都市を実現することだ。それは2020年の東京オリンピック招致のコンセプトとも合致するだろう。清渓川には高架道路のコンクリート製橋脚3本が遺構として残されている。64年の東京オリンピックとともに完成した日本橋の上部を覆っている首都高の橋脚が、日本のポスト近代化を象徴する“産業遺産”のモニュメントになる日もそう遠くないのかもしれない。
土堤内 昭雄
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(2012年11月26日「研究員の眼」)
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