2012年11月21日

貿易統計12年10月~大幅な貿易赤字が続く

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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・大幅な貿易赤字が続く
・主要3地域向け輸出の減少が続く

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財務省が11月21日に公表した貿易統計によると、12年10月の貿易収支は▲5,490億円と4ヵ月連続の赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:▲3,520億円、当社予想は▲4,187億円)を下回った。ただし、輸出の減少幅が9月の前年比▲10.3%から同▲6.5%へと縮小し、輸入が前年比▲1.6%(9月:同4.1%)と2ヵ月ぶりに減少したため、前年に比べた貿易収支の悪化幅は前月よりも縮小した。
日中関係悪化に伴い大幅な落ち込みが懸念されていた中国向け輸出は前年比▲11.6%となったが、9月の同▲14.1%からは減少幅がむしろ縮小した。不買運動の影響が大きい自動車は前年比▲82.0%と急減したが、全体への影響は限定的であった。現時点では日中関係悪化が輸出全体に大きな影響を与えるまでには至っていない。ただし、中国における不買運動などが中国向け輸出の減少となって表れるまでにはタイムラグがある可能性もあるため、今後の動向を注視する必要がある。
季節調整済の貿易収支は▲6,243億円と13ヵ月連続の赤字となったが、9月の▲9,591億円からは赤字幅が大きく縮小した。輸入の減少幅(前月比▲7.8%)が輸出の減少幅(同▲2.8%)を上回ったことが貿易赤字の縮小に寄与した。貿易赤字は9月に大きく拡大した後10月には縮小したが、これは環境税導入前の駆け込み需要で原油輸入が9月に大幅に増加し、10月にはその反動で大きく減少したことによるものである。9月、10月を均した赤字幅は8月以前を大きく上回っており、実態として貿易赤字は拡大している。
10月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比2.8%(9月:同▲0.6%)、EU向けが前年比▲24.4%(9月:同▲20.7%)、アジア向けが前年比▲6.6%(9月:同▲10.0%)となった。季節調整値(当研究所による試算値)では、米国向けが前月比▲0.3%、EU向けが同▲8.3%、アジア向けが同▲1.2%、全体では同▲1.5%であった。
9月に続き主要3地域向けの輸出が全て前月比で低下したが、景気悪化が続くEU向けは低下幅が大きく拡大する一方、米国向け、アジア向けは低下幅が縮小している。米国経済は一定の底堅さを維持していること、日中関係悪化の影響は懸念されるものの中国経済自体は持ち直しの動きが見られることから、米国向け、アジア向けの輸出は近いうちに下げ止まる可能性もあるだろう。
なお、9月の経常収支は季節調整値で▲1,420 億円と現行統計が存在する1996 年1 月以降では初の赤字となったが、10月の貿易赤字(季節調整値)が前月から大きく縮小したことにより、10月の経常収支(季節調整値)は黒字に戻る可能性が高い。

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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