コラム
2012年11月06日

復活しつつある社員旅行―職場内コミュニケーション重視への回帰―

中村 昭

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厚生労働省より、新卒者3年以内離職率に関する調査結果が10月31日に公表されました。今年は、初めて業種別の離職率数値が発表され、業種間で大きな格差(ベスト業種6.1%、ワースト業種48.8%=新規大卒者3年以内離職率)が存在することに注目が集まりましたが、全体数値は依然として高止まりを示す厳しい結果でした。『七五三』と呼ばれる、中・高・大学新卒者の3年以内離職率は、ここ5~6年は改善傾向にあるものの、今年も64.2%・35.7%・28.8%(2009年新卒者)という高い数値でした。

何故、多くの若者が早期に会社を辞めていくのかという理由については、労働政策研究・研修機構が、2007年に発表した『若年者の離職理由と職場定着に関する調査』が興味深い分析結果を示しています。この調査では、ハローワークに来所した35歳未満の求職者に対して、離職した前職場の職場環境について質問をしています。前職が正社員だった人の回答をみますと、前職場について「仕事上のストレスが過大であった」と回答した人が77.3%(そう思う49.9%+ややそう思う27.4%、以下同様)と最も多く、「人を育てる雰囲気がない」状態であったと回答した人も63.5%(43.0%+20.5%)に達しました。一方、人間関係以外の質問に対しては、不満の回答はより減少して、「労働時間が長すぎる」は56.3%(36.9%+19.4%)、「賃金が低すぎる」は56.3%(29.7%+26.6%)、「仕事の責任が重過ぎる」は52.0%(25.3%+26.7%)でした。
   このように、離職する若者が不満を感じていた大きな要因が、職場の円滑な人間関係やコミュニケーションの問題にあることが明らかになりました。まさしく、人間の最大の喜びは人間関係より生じ、苦しみや悲しみも人間関係から生じているようです。

さて、私が就職いたしましたのは、今や遠い昔の1979年ですが、思えば当時は職場内のイベントやレクリエーションが花盛りでした。大運動会・稽古事の発表会・社内旅行・スポーツ部活動・保養所を活用した職場ぐるみ一泊研修等大変な充実ぶりでした。しかしながら、この三十年余りの間に、ほとんどが消滅してしまったようです。
   恥ずかしながら、自分の会社生活を振り返りましても、業務上の思い出を超えて、仲間とのイベントの思い出がより強く印象に残っております。恐らく、これらの諸活動は、職場内の連帯感や企業への帰属意識の醸成だけではなく、個人の幸福感の醸成にも大きく寄与していたのであろうと思います。

しかし、熟年世代のノスタルジーの対象へと転化し、減少一方であった社内イベントについて、近年新たな動きが現れ始めました。それは、新卒者離職率の高止まりや、増大するメンタルヘルス問題への対応策として、社内旅行を初めとした職場内コミュニケーション施策を再評価しようという動きです。

産労総合研究所が、2010年に発表した『社内行事と余暇・レク活動』調査によれば、減少を続けていた社員旅行実施率は、2004年をボトムに上昇に転じているとの結果でした。
   この調査結果と、先の厚労省調査による大学新卒者3年後定着率(大学新卒者3年以内離職率の逆の率)を並べてみますと(図表)、企業の職場内コミュニケーション重視への回帰とともに、定着率が改善を始めたと見ることも可能でしょう。

社員旅行実施率と大卒者定着率の推移



実は、先週末、私の担当する生活研究部門でも社員旅行を実施しました。研究所という特性からか、これまで社内で旅行が実施されたことは無かったようですが、お祭り好きの私の提案で、御一緒に一泊おつきあい頂くこととなりました。
   研究員各位には、多大なスケジュール調整を強いることとなりましたが、天候にも恵まれまして、記憶に残るであろう楽しい旅行となりました。後は、更に強まった職場内コミュニケーションを梃子に、生産性の向上を図るのみです。

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