コラム
2012年10月31日

高齢者雇用政策の展望~生涯現役社会/エイジフリー社会の実現に向けて~

生活研究部 主任研究員   前田 展弘

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(1)超高齢未来の姿を決定づける「高齢者の就労と活躍」

私たち一人ひとりが、“いつまで働くか”、“高齢期にどのように活躍し続けるか(活躍し続けられるか)”というテーマは、個人の人生設計において大きな問題であると同時に、社会にとってもこれからの超高齢未来の姿を決定づける極めて重要な問題である。年金の仕組みや福祉サービス、また経済の成り立ちを考えても、社会は支える人と支えられる人とで構成されており、今後社会を支える人が減少し続ければ社会としての持続性が大いに危ぶまれる。
   実はこの問題の解決の答えは明確にわかっている。それは“年齢に関わらず働きたい人が働ける社会にする”ということである。政府が策定する「高齢社会対策大綱」(2012年9月改定)、厚生労働省の「高年齢者雇用就業対策」また「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告(2011年6月)」等が示す方向性、さらには世界の先進各国における政策方向を見てもそれは確かである。このことは「生涯現役社会」「エイジフリー社会」という言葉で表現されて、その実現に向けた国政レベルの検討が進められている。しかし、その実現は一筋縄にはいかない。なぜなら、定年と年金制度との関係(高齢期の所得保障の連続性)、既存の日本型雇用慣行・ルールとの関係(定年延長が企業経営に与える影響等)、高齢者が活躍できる環境との関係、また個人の生き方との関係といった国(行政)、企業、地域(自治体)、国民の間で相互に関連することを総合的に捉えながら、最適な雇用・就労のシステムを新たに築いていかなければならないからである。


(2)これまでの高齢者雇用政策の経緯

これまでの高齢者雇用政策を振り返ると、1960年代から本格的な議論が開始されてきた。当初は定年が55歳以下である企業がほとんどであったなか、政策の中心は定年後の失業対策としての施策であった。1970年代に入ると労働市場内部における雇用維持施策、つまり「定年延長」の取り組みに政策の中心が移行する。1960年代が定年後の事後的対応であったのに対し、70年代からは定年延長という予防的対応に高齢者雇用対策は切り替わっていくのである。「昭和60年、60歳定年」といったスローガンも掲げられるなかで、1986年(昭和61年)には「60歳定年の努力義務化」がついに立法化される(60歳定年は1994年に義務化が成立)。その後は、1985年に行われた年金制度の抜本的大改革(老齢年金支給開始年齢を現行の60歳から65歳へ段階的な引き上げ)を受ける形で、「65歳までの雇用確保」が新たな政策目標となる。そして、2004年に行われた「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(略称:高年齢者雇用安定法)の改正において、65歳までの雇用確保を確実なものとするべく対応措置の法的義務化(段階的対応)がはかられる。この結果、企業は、(1)定年の廃止、(2)定年の引き上げ、(3)継続雇用制度の導入、のいずれかの措置を講じなければならなくなった。(2)(3)については2013年4月1日までに雇用確保義務年齢を65歳以上に引き上げる必要があり、これで私たち国民としては少なくとも65歳までの雇用確保の道筋がついたことになったのである。


(3)今後の高齢者雇用政策に求められる2つのポイント

年金支給との連続性という面ではこれで一段落という見方はできるが、冒頭に述べたような超高齢未来の姿、社会全体のあり方を考えると、これで問題解決ということにはならない。現在の高年齢者雇用就業対策は、前述した「雇用確保措置の推進」「中高齢者の再就職の援助・促進」「高齢者の多様な就業・社会参加の促進」という3つの柱のもとで、各種の施策が講じられているが、真の「生涯現役社会」「エイジフリー社会」の実現に向けた歩みを進めるには、さらなる取り組みが必要である。そのポイントは次の2点にあると考える。
   一つは、雇用場面での「年齢差別禁止」策まで踏み込んでいくことである。もはや社会の要請として必然であろう。世界各国の動きを見ても、米国で1967年に成立した「雇用における年齢差別禁止法(The Age Discrimination in Employment Act of 1967;ADEA)」はよく知られているところであるが、高齢者雇用政策の取り組みは日本よりも後発だった欧州連合(EU)においても2000年に「雇用及び職業における均等待遇の一般的枠組みを設定する指令」を採択している。年齢を含む4つの事由について雇用差別が禁止され、EU各国はこの指令を受けて各種の法改正を実施している。
   定年という企業にとっての雇用調整機能を外すことは、入社から退職までの賃金カーブの設計等、様々な人事諸制度・雇用ルールの見直しを行っていく必要があり、見直しには相応の労力がかかる。またこれまで築いてきた日本型の雇用慣行(ここでは年功賃金や組織の秩序等を意味する)や定年という仕組み自体を一概には否定できないという考え方も存在する。非常に複雑でデリケートな大きなテーマであることは確かであり、考え方としても大きくは保守的と革新的とに二分される。
   人生90年という長寿時代における政策立案の見地に立って、保守的に現行の政策との連続性を考えると、やがては「70歳までの雇用確保、70歳からの年金支給」というような延長策が講じられても不思議でない。この是非については本稿では問わないが、もっと前向きに革新的に考えていくことを推奨したい。内閣府のフロンティア分科会(2012年)が提唱した「40歳定年制」の考えとも相通じるところがあるが、定年というゴールのもとでの雇用確保策の延長はさらに雇用市場の流動性を制限し硬直化させていくに違いない。やや穿った見方になるが、本人の適性や向き不向きに関わらず、一度獲得した正規雇用という既得権にしがみつかざるを得ないような生き方を志向する人を雇用延長策は増幅させるだけという懸念がある。それは本人ならびに経営者、また経済市場全体においても好ましくない。望ましい雇用市場は、一つの仕事を生涯かけて打ち込める人、複数のキャリアを自由に選択しながら人生設計できる人が混在する市場であると考える。そのことを実現するには、年齢差別禁止策の導入を通じて雇用市場の自由度を高める、つまり雇用する側、される側の双方に就労における選択の自由度を高めていく政策及び制度を構築することである。こうした市場の形成は、引いては国民及び企業、そして経済にとって有益になっていくと考える。
   もう一つは、「地域社会で高齢者を雇用」するという視点である。現役生活からの引退タイミングは個人差があるが、誰もがやがてはリタイアし、その多くは地域コミュニティの中に新たな活躍の場を求めていく。しかし、現状の地域に目を向けると魅力ある活躍の場が少ないという高齢者の声をよく耳にする。「やることがない、行くところがない、会う人がいない」という“ないないづくし”のため、自宅に引きこもりがちになってしまう人が少なくない。そうした生活を続けると生活不活発病(廃用症候群)や社会的孤立の問題を誘発する。こうした現象は特にベッドタウンと称される都市近郊地域で顕在化している。リタイアした高齢者の生きがいある長寿をサポートする意味、また経験・知識が豊富な貴重な高齢者という社会資源を社会として活かしていく意味でも、福祉や育児サービス、あるいは農業、林業、地場産業等、あらゆる場面において高齢者が活躍できるような雇用市場を形成していくことが望まれる。なお、この視点での取り組みについては、筆者も参加して取り組んでいる千葉県柏市における「生きがい就労事業」がある


やがて人口の3人に1人が65歳以上の高齢者となる超高齢未来が確実に訪れる。そうした超高齢未来を国民一人ひとりがより豊かに、そして社会としての持続的な発展をはかっていくには、「生涯現役社会」「エイジフリー社会」の実現は欠かせない。年齢差別禁止策の導入を通じた雇用市場の自由度の拡大、地域社会における高齢者雇用の促進は極めて重要な政策視点と考える。そのような方向に社会が進むことを期待する。

 
 

 

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生活研究部   主任研究員

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

(2012年10月31日「研究員の眼」)

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