コラム
2012年10月24日

減る屋上緑化、増える壁面緑化-都市緑化月間に屋上緑化を考える

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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10月は都市緑化月間に当たり、全国各地で様々な催しが行われている。そのようななか気になる調査結果を眼にした。都市緑化月間初日にプレスリリースされた国土交通省の調査結果である。これによると、屋上緑化の年間施工面積が2008年をピークに3年連続で減少しており、かつ1件当たりの施工面積も減少しているという。

屋上緑化は都市のヒートアイランド現象を抑える有効な手段として普及が期待され、都市部の自治体では、新築や増改築に伴い緑化の義務付けを行うとともに、助成制度を設けて普及を促進してきた。こうした取り組みにより、調査を開始した2000年以降年々施工面積が増加してきたが、ここ数年減少しているのはなぜであろうか。

年間施工面積の減少は主に建築着工件数の減少に伴うものと考えれば理解できる。では、1件当たりの施工面積の減少はどのように考えればよいのだろうか。一つは、小規模な建築での導入が増えたことで相対的に屋上緑化面積が小さくなったことが考えられる。もう一つは、建築主が屋上緑化の面積を縮小する傾向にあることが考えられる。おそらく両方があるのだろう。ここでは、後者の要因について私なりに考えてみたい。

自治体による緑化の義務付け制度は、主に、一定規模以上の敷地面積に建物を建築する場合、屋上面積の一定割合以上を、建物上で緑化しなければならないというものである。建物上での緑化面積の算定には屋上緑化の他、壁面緑化も含まれる。ここに建築主が屋上緑化の面積を縮小する一つの要因があるのではないだろうか。

壁面緑化の施工面積の推移をみると、屋上緑化と同じく2008年にピークに達したが翌年は減少、しかし2010、2011年と増加している。年間施工面積の水準は屋上緑化に比べると低いものの、2011年の一件当たり施工面積は屋上緑化の水準に迫っている(図表参照)。

壁面緑化の技術は近年非常に向上している。以前はセダムやツタ、コケ類といった単一種による緑化が主流であったが、複合種による緑化が可能な、デザイン性に優れた製品が開発された。こうしたことから、屋上緑化よりも壁面緑化を選択する建築主が増えたものと推察できる。つまり、壁面緑化した分屋上緑化の面積を減らしていると考えることができる。特に商業施設での施工面積が増加していることから、デザイン性の向上が壁面緑化の導入に効果的であったと考えられる。最近、壁面緑化を施した商業ビルを眼にするようになったと感じる人も少なくないのではないだろうか。

もう一つの要因として、太陽光発電パネルの設置が考えられる。緑化義務制度を設けている自治体には、緑化面積算定の基になる屋上面積から、太陽光発電パネルの設置面積を除くことができるようにしているところもある。3.11以降、再生可能エネルギーに対する関心の高まりを受けて、今後、太陽光発電の導入が進むと、さらに屋上緑化面積が減少していく可能性がある。

デザイン性が向上した壁面緑化や電力コスト軽減のメリットがある太陽光発電に比べると、建築主は、屋上緑化のメリットが小さいと感じるかもしれない。しかし、屋上は壁面に比べほぼ日中いっぱい日差しを受けており、ヒートアイランド現象を抑える効果や室温の上昇を抑えることによる省エネルギー効果もより高いと考えられている。また、壁面緑化の植栽種類が増えたとは言え、フラットな屋上緑化の方がよりバラエティーに富んだ植栽が可能で、生物多様性への効果も大きいのではないだろうか。

筆者の推察のとおり、壁面緑化や太陽光発電パネルによって緑化義務を満たすことから、屋上緑化の面積が減っているのであれば、大変残念である。どちらを選ぶということではなく、屋上緑化と壁面緑化、そして太陽光発電を組み合わせることにより、より一層効果的な省エネルギー化を実現するというように、建築主には考えてほしいものである。

さらに、行政としては、この傾向が続くことでヒートアイランド現象の抑制が思うように進まない場合、緑化義務や緑化助成の制度改正を視野に入れる必要があるのではないだろうか。

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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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