コラム
2012年10月02日

頑張れ!日本の家電メーカー-創業時の高い志・DNAを取り戻せ!

社会研究部 上席研究員   百嶋 徹

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三重県の亀山工場で一貫生産した液晶テレビ「亀山モデル」で一世を風靡し、薄型テレビの国内市場を切り拓いてきた優良企業シャープの苦境が、8月以降頻繁に報道されている。同社に限らず、パナソニック、ソニーを加えた大手家電メーカー3社は、薄型テレビとその基幹部品であるパネル(液晶、プラズマ)事業の業績不振を主因に、2011年度決算で揃って未曾有の赤字を計上した。

なぜ我が国の大手家電メーカーは未曾有の苦境に陥ったのか。薄型パネルの製造からテレビの組み立てまで一貫して手掛ける「垂直統合モデルへのこだわり」とそれに伴う「薄型パネルへの過剰投資」が根本的な原因だと断定する論調が蔓延しているが、本当だろうか。

まず垂直統合モデルなど「ビジネスモデル」の問題だが、筆者は根本的な原因であるとは思わない。垂直統合モデルは、より多くの付加価値を取り込み、技術ノウハウのブラックボックス化を進めるための定石戦略であり、現に液晶テレビの世界シェア首位のサムスン電子と同2位のLGエレクトロニクスの韓国2社は、垂直統合モデルを採っており、液晶パネルでも世界シェア1、2位を争っている。

次に「薄型パネルへの過剰投資」問題だが、筆者は「過剰」ではなく、むしろ「過小」であったと考える。例えば、シャープは亀山工場、堺工場と相次いで液晶パネルの先端工場を立ち上げ、国内メーカーの中では投資を牽引してきたとの印象が強いが、韓国や台湾など海外の大手競合メーカーは、概ね同社を上回る規模の投資を続けている。日本メーカーは決算対策のために、不況局面では投資を抑制する傾向が強いが、海外メーカーは決して投資の手を緩めない。08年の世界金融・経済危機以降、そのような傾向がより鮮明になっている。薄型パネルは半導体とともに典型的な設備集約型産業であり、大型投資の継続による生産性の向上が競争力の源泉となる。液晶パネル市場では、現在し烈な「サバイバルゲーム」が展開されており、その「最終章」も近い。日本企業が「過剰投資」という論調に影響され、このまま投資を抑制し続けると、市場から完全にふるい落とされかねないと懸念される。

このように筆者は、大手家電メーカーが薄型テレビ事業の垂直統合モデルの下で、薄型パネルの国内投資を推進した戦略自体が間違っていたとは思わない。現に世界・金融経済危機の前までは、大手家電メーカーはパネル投資を行いながら薄型テレビ市場を開拓し、収益的にも一定の成果を出しており、足下の短期業績という一断面のみを捉えて、これまでの企業の取組をあたかも全否定するような風潮は極めて一方的だと感じている。

先に述べたとおり、筆者は、大手家電メーカーの苦境の原因のひとつは、韓国勢に比べ薄型パネルの投資規模がむしろ不十分だったことであると考える。世界金融・経済危機以降の急速な円高の進行などによる収益悪化が投資抑制に向かわせた面も大きいが、人々のライフスタイルを豊かにする薄型テレビ市場を席捲したいとの強い思い・ビジョンを実現するために、十分な薄型パネルの投資を徹底的にやり抜く気概が海外勢に劣っていたのではないだろうか。

また、不十分な設備投資に加え、根本的問題点として着目すべきは商品企画開発力の低下だ。ソニーのウォークマン、シャープのザウルスなど、ユーザーをわくわくさせるようなイノベーティブな製品が、我が国の大手家電メーカーの手により世に送り出されてきたが、最近ではアップルやサムスン電子に押され、かつての日本メーカーの商品企画開発力は完全に鳴りを潜めている。商品企画開発力の問題も、社会に役立つ製品・サービスを生み出し、人々のライフスタイルを豊かにしたいという使命感や気概が、海外勢の方が勝っていることに行き着くのではないだろうか。経済的利益ありきの発想ではなく、まず社会を変革するという高い志を持ち、自社の技術や製品・サービスで社会をより良くしたいと強く思うことが何よりも重要だ(注1)。社会に役立つという強い使命感と起業家精神を持って、自らがわくわくしながらものづくりに真摯に取り組まなければ、単なる技術革新を超えたソーシャルイノベーションを生み出すことは難しい。

業績不振や「過剰投資」という論調を受けて、我が国の大手家電メーカーが薄型パネルの量産投資、ひいては設備集約型事業から手を引くのは極めて危険であると考える。今も家電産業において、基幹部品(キーデバイス)とセット製品の接点・擦り合わせがイノベーションの源泉であることに変わりはない。そもそも設備集約型事業は、安価な労働力や電力費などが決定的な競争優位をもたらす事業と異なり、事業戦略次第で国内立地でも競争力を確保できるはずだ(注2)。商品企画開発力を取り戻すことができれば、国内での垂直統合モデルは十分可能である。

大手家電メーカーが苦境に陥った根本原因は、ビジネスモデルなどの問題ではなく、社会に役立つという高い志を実現するために、事業をやり抜く使命感や気概が海外企業に比べ不足していたことに集約されるように思われる。大手家電メーカー3社の創業者は、まさにそのような強い使命感・気概を持つ我が国を代表する産業人だった。勿論短期的な財務リスクに手を打つことは不可欠だが、今こそ全社一丸となって創業時の高い志に立ち返り、そのDNAを取り戻すべきではないだろうか。

シャープは、7月に事業再構築策の一環として、低稼働に苦しむ大型テレビ向け液晶パネルの世界最先端工場である堺工場をEMS(電子機器の受託生産)世界最大手の台湾・鴻海(ホンハイ)グループとの共同運営に移行した。この堺工場が、来るべきテレビのさらなる大型化時代に対応した最先端パネル工場として本領を発揮し、我が国の家電産業の力強い再生のシンボルになるとともに、シャープの堺工場建設の判断が間違っていなかったことが今後証明されることを切に願っている。


 

(注2) 企業の立地戦略に関する考察については、拙稿「製造業の『国内回帰』現象の裏にあるもの」『ニッセイ基礎研REPORT』2004年12月号を参照されたい。

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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

(2012年10月02日「研究員の眼」)

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